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逃げるが勝ち



「おいどうした?」

ふ、と気がつくと既に横川の姿はなく、松田さんが手を私の前で振っていた。

どうやらぼーっとしている間に彼は帰ったらしい。
念のため、と携帯の番号を交換して。

ちなみに萩原さんも一応勤務中だったため一緒に帰ったらしい。
気が付かなかったからあとから煩いかも。

「……あの人、横川さんって」

「あ? あぁ、俺らの警察学校の後輩だ。
頭悪くねぇから事務でも行けたけど現場選んだってよ」

なんだ、気になるのか?
と怪訝そうに見られた。間違ってはいない。
私の日常を、壊すかもしれない存在。


─────────
ピリリリ、と電話が鳴った。
設定してないということはそんなに電話が来ない人。

画面には『横川亮也』。

電話を出ずに切るとチャイムが鳴った。

「はーい!」

私がいるのは日常生活で住んでいる工藤邸。
つまり、チャイムが鳴れば家にはゆきちゃんが、いるわけで……

「あらぁ〜警察の方?」

階下から微かに聞こえた彼女の声に軽く舌打ちを漏らし、ロープを窓から垂らした。

「みぃちゃ〜ん! 警察の横川さんが……あら?
もう! 窓開けっ放しじゃない! どこいったのかしら……」

ギリギリ地面に着地し、裏から塀を超え道を行けば

「『前』のお前とは思えない活発さだな。
『今回』は健康そうで安心した」

そう言い、男、横川亮也が立っていた。

くるっと踵を返し、走る。

「ちょっ!? 嘘だろお前!」

逃げるが勝ち

向き合う強さなんて私にはない。

*

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