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茨垣を裸身で潜る



あれから熱も下がり、食欲も戻った。
入院二日目には動くことに支障もなく捜査一課、特殊犯係と強行犯係の刑事が数人で事情聴取をしに来た。

とは言っても、私は殆ど覚えがない。
知っているのは父、春彦への復讐である事、
犯人は爆弾に精通し、異様なトラップをも仕掛けられる力量がある事、
連れ去った方法は、首筋にスタンガンの跡があり、最後の記憶で衝撃があった事から、スタンガンで気絶させてから、車で郊外まで運んだという事。

そして何より、脅しでなく本当に殺すつもりだったこと。
室温の調節もされておらず、爆発前に低体温で死ぬ可能性もあった。

それは医師も把握しているし、犯人も認めている。実刑は免れない。

「で、目が覚めたらボイスチェンジャーで変えられた声がスピーカーからと」

「はい。
あの廃屋を調べればわかると思いますけど、スピーカーが天井に、そこからなにかで流したんだと思います」

「丁度目覚めた時、と言うことはカメラかなにかが設置されてたんだろうな…
富沢の家の家宅捜索で出てくればいいが……」

「処分してる可能性もあるでしょうね……」

「あぁ、ま、大体犯人の供述と一致するし問題ないでしょう。
疲れてるとこ悪いね」

「いえ、お疲れ様です」

「じゃあゆっくり休んで」

「ありがとうございます」

事情聴取は簡単なもので、犯人の供述との相違点がないかだけを確認して、刑事たちは出ていった。
両親は近日中にパリに発つので今日は来ないだろう。父さんはやっぱり日を伸ばそうとか言ってたけど。

ガラッと音がして肩を跳ねさせて、扉を見ると肩を竦めるしかなかった。

「一昨日ぶり? かな。美音ちゃん」

ニッコリと笑って手を振る男、萩原研二。

「散々走らされたのはいい経験になったぞ」

反対に悪人のような笑いを見せるのは、サングラスと咥え煙草がトレードマークで……流石に病院では吸ってないが……おなじみの松田陣平。

「……どうも、先日は助けていただきありがとうございます」

「そりゃ、仕事だからねぇ
それに、一度助けてくれたし」

かたんっと折りたたみ椅子に腰を下ろして話す彼。
そういえば、こうしてゆっくり話すのは初めてだったか。

「借りは返したぞ」

と、ポンッと頭に手を乗せるのは立っている松田さんの方だ。

「ちょっと陣平ちゃん! この子に借りがあったのは俺の方なんだけど!」

「どっちも一緒だろうが
爆処理の人間が生き残ったんだしな」

「あっ、そっか」

納得しちゃうんだねこの人。

「まぁ、ここからはオフレコ。
どうして君はあの場にいたの?」

流石に逃げ場はない。

「警部に聞いて?」

「いやいや、あんなピンポイントで……」

「気になることもあったから?」

「だからって退去令出てるのにそのままいるのはいただけねぇな」

「いやぁ、起きたらあの時間で」

「22階から飛んだのは?」

「警部にバレたくなかったから?」

「えぇ……」

「どこでそんなこと習った?」

「ハワイで父の友人のスタントマンから」

「……あぁ、お前の親映画監督だもんな……」

「ほんと心臓止まるかと思ったよ……」

「流石にまだ自殺願望はないですよ」

質問は核心に触れそうだが、こちらも本当のことを漏らすわけにはいかない。
誰にも言っていない、私の秘密。
常人ならまず、信じられないだろうし、伝えるわけにはいかない。
そもそも、私はこの人たちを救ったら断ち切って、裏方に回るつもりだった。

なのに、顔を見られた。
全く、とんだ誤算だ。
それに誘拐と爆弾、今回の件で救われてしまった。

頑張った計画はぱぁだ。
だが、項垂れる余裕はない。

「聞きたいことはそれだけですか?」

「今んところは」

「えぇ……」

「俺からもう一つ」

松田さんは座らずに未だにたっている。

「……何でしょう?」

「あの爆弾事件、お前はどう見る?」

それは、事件の収束の有無の話かな?

「松田さんや萩原さんと同意見ですよ。
きっと事件はまだ終わっていない。
警部に聞きました。犯人の1人は逃亡中に事故死、被疑者死亡で送検。
その後、もう1人からFAX。
きっとまだなにか起きますよ。恐らく、11/7に」

終わることはないだろう。あんな1件のみで。

「流石中学生探偵さんだな」

ニッ、とふたりが笑った。

「そういうことなら、協力してくれや。
俺らは2人とも今、異動希望を出してる」

「異動希望……?」

「捜査一課特殊犯係にね、爆弾魔を追うのに機動隊じゃ限界があるから」

あぁ、萩原さんも加わったが、原作通りにことは進んでいるのか。

「なるほど……でも、お二人共優秀な爆処理の方ですよね?
希望通るんですか?」

「いーや? 出したら上司にキレられたわ」

「えぇ〜……」

「まぁ、警察なんかそんなもんだ。
希望なんか簡単に通らねぇし、でも、諦めるつもりはねぇよ」

心強い

「なら、私の方でもちょっと調べたりはしますけど……」

電波だろうがなんだろうが、流石にまだ犯人の居場所は掴めない。
そこまで万能ではないし。

「助かるぜ」

「……ま、毎年11/7に警視庁に顔は出しますよ。
何かしらのヒントが出てくるかも知れませんし」

「お前まだ学生だろ?
平日だったら───」

「来年から高校生なのでお気になさらず」

心からの笑顔を添えて。

「え〜……5年前とは大違い……」

「人は成長するものですよ」


──────────────

それから数分もしないうちに彼らは帰っていった。

「ちゃんと、救えてる。
大丈夫。世界はもう、時を刻み始めてるんだから……」

私の知ってる未来に向かって。

でも気は抜けない。
少しのズレが世界を狂わす。
全く違う未来になってしまうことだってありうる。

傷つくのは私だけでいい、なんて、都合のいいこと、何度言うのだろう。
傷つく人を見たくないだけなのに。

茨垣を裸身で潜る

どこを進んでも、傷だらけになるなら、私だけが傷だらけになる道を


*

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