束の間の休息
警察病院に運ばれた美音は医師に処置をされ、現在では病室で深い眠りに落ちていた。
寒さで多少、凍傷の危険性があったが、診察の結果は凍傷ではなく、風邪を引いたようで熱が出ていた。
手足は未だ冷たいのに額や顔、首は熱を持っており、命に危険こそないが、予断は許されない。
「僕もいいかい?」
病室近くの喫煙所で、伊達松田萩原の三人揃って煙草をふかしていた所に、美音の父である春彦が立ち寄り胸ポケットからタバコを1箱取り出した。
火をつけて目を閉じ、軽く煙を吐く彼に殆ど残っていた煙草を揉み消して、伊達は向き直り、
「……白樫さん、すいませんでした」
と深く頭を下げた。
ゆっくりと瞼を上げて、春彦は眼前にこわばった顔で佇む伊達を見た。
「本来、犯人を見つけて、娘さんを保護するのは俺たち警察の役目です。
貴方に事件解決の協力を依頼し、此度の犯人の恨みを買わせてしまい、挙句、何も関係ない娘さんを命の危機に瀕するまで巻き込んだ。
もう少しで取り返しのつかないことになる所でした。
守るべき一般市民の貴方を危険に巻き込み、娘さんの居場所すら、貴方がいなければ特定できなかった。
謝っても仕方ないと分かっています。
申し訳ありませんでした」
再度、深々と頭を下げる。
それを黙って見据える春彦は、また紫煙を吐き出した。
「……頭を上げてくれ、伊達くん。
確かに、今回の事件、あの子を救うのは警察の仕事だったかもしれない。しかし、事件に首を突っ込み、あまつさえ君たちの仕事を奪うように犯人を見つけ今回の犯人である富沢日を無罪放免としたのも、娘が巻き込まれたのも私自身の責任だ」
ゆっくりとそう言うと、また、煙草を口にする。
「しかし──────「それにね、自分の子を救うのに理由がいるのかい?」え?」
頭を上げず、伊達は顔を前に向け、目だけで春彦の顔を見やる。
「自分のせいで巻き込まれて、危険で怖い目にあっている娘を救うのに私たち親は指をくわえて待ってたり、自分が動かないでいる理由などあるのかい?」
そう言って、柔らかい笑みを見せた。
いつの間にか無くなっていた彼の煙草は、喫煙所中央に鎮座する灰皿に押し付けられると火を鎮火させて、踵を返し、喫煙室を出ていった。
「はー、さっすが映画界の精鋭、白樫春彦はでっかいねぇ」
テーブルに腰掛けて、一部始終を見ていた萩原が煙草片手に感嘆の息を吐く。
「経験値が違うってか?」
ニヤリと笑う松田。
後ろ手に備え付けられたカウンターに肘をかけて、伊達は項垂れた。
「はぁ、勝てねぇなぁ」
「あの人にゃ勝てねぇだろ。お前じゃあな」
「だろうな」
緊張感のない2人はニヤニヤと、伊達に対して辛辣な言葉を投げつける。
「うるせぇよボケ」
咥え煙草がトレードマークの松田と、爆発物の横でも平気で煙草を吸える萩原。と並んで、咥えた爪楊枝がトレードマークの伊達。
喫煙所にいる為、伊達も勿論煙草を咥えているが、普段咥える爪楊枝は勿論咥えていない。
それに、二人は多少違和感がある。
「お前なんでいつも爪楊枝くわえてんの?」
「なんでもいいだろうが」
「やべ、ラストか。帰りに買わなきゃな…」
と、青が目立つソフトパックを見て顔を歪める萩原。
「お前よくそんな重いもん吸えんな…」
と、銘柄を見てゲッソリと伊達が、萩原とは違う意味で顔を歪めた。
「そうかぁ? 俺はコイツみてぇに常に吸ってるわけじゃねぇしなぁ…」
目だけで松田を指す。
「お前は今度ピースでも吸ってろ」
松田は見下されたか、馬鹿にされたような気がして煙を吐きながら、そう言って睨んだ。
「いやー……流石に28とかはキツイって〜……」
苦笑してラスト1本を取り出すと、くしゃりと丸めてゴミ箱へ投げ入れた。
「お前の12も俺にとっちゃ十分重いっての……」
「お前の6ミリは逆に言えば軽すぎるんだよ」
敢えていうが、6ミリは決して軽すぎる訳では無い。
世間一般でいえば17ミリや12ミリの煙草は重い部類に分けられる。
「てか白樫さんのタバコって……」
「……流石に吸う度頭クラクラすんのは無理だわ……」
萩原はそう言って、散々重いと言われた紫煙をくゆらせた。
束の間の休息
あの人やっぱりやべぇわ。
そう、三人の心が一つになった。
*
※管理人は喫煙者じゃないので知りません聞きかじりです間違ってたらすみません爆笑
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