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中学生に頼るな



携帯に電話がかかってきた。

通信講座のインテリアデザインのテキストを暇つぶしにパソコンでしていたこともあって発信者も見ずに電話に出る。

「はーいもしもしー」

カタカタとキーボードー叩く音を片耳に入れながら応答する。

『おお! 美音くん!』

ピタリとキーを走る指が固まる。
面倒に巻き込まれる。

「……目暮警部……」

抑えきれない溜息が口から漏れ出る。
幸せが逃げるって?うるせぇ馬鹿か。
溜息ってのは呼吸と同義で深呼吸のようなものなんだよ!!!!
そんなくらいで逃げる幸せならいらねぇ!!!!

『実は頼みがあってなぁ……』

「……事件ですか? 事故ですか?」

もう私警察のコールセンターに就職してやろうかゴルァ!!!!!

『まだ分からん。事故のようだが……』

「えぇ……なんで急に私に振るんですか……」

『優作くんも春彦くんも繋がらなくてなぁ……』

「妥協して私にかけてくんのやめてくんないっすか!?」

『いやぁ……頼れるのは君だけで……
我々警察も今頭を抱えとるんだよ……』

「いや、いやいやいや!!」

『場所はメールしておくから至急来てくれ!』

プッ

「えっちょ……」

言い逃げかよ!!!!
もうほんとふざけんな!!!!

ピロリンッと初期設定の着メロが鳴った。

「……はぁ……東都大学……ね……」

─────────東都大学・経済学部研究室

ふらっと現場に行くと顔見知りの警察官があっさり通してくれた。
それでいいのか日本警察。

「警部〜」

「おお! 来てくれたか!」

「……来なかったらまた電話かけてくるでしょーよ……」

溜息がまた出た。

「……ちょっと何よこの子……」

「お気になさらず〜
で? 事故に見える殺人ってのは?」

「あぁ、被害者は東都大学経済学部の副手、向坂陽太さん、25歳。
死因は恐らく頭部強打による頭蓋骨陥没」

「……頭蓋骨陥没……?
検死はまだしてないっすよね〜
……って……トメさ〜ん」

「おう、お嬢ちゃんか。どうしたんだい?」

「ここ、胸部に刺した跡があるよね?
この細さは注射針じゃないかなーって」

胸部はシャツを肌蹴させると、心臓のちょうど真上に細かな穴が空いている。
パッと見た限りでは殆ど目に見えず、しっかりと止血もされている。

「本当だ……これがもし心臓にまで到達していれば……」

「死因はこっち……頭部強打は偽装工作」

「なに!? し、しかし司法解剖をすれば───」

驚いた目暮警部に思わずため息をつく。

「現在の警察における司法解剖を行う確率は全国平均でも10%未満。
死体取扱数と比べ医師不足で行えないのが現状。それで、事件性のないと判断されれば司法解剖はされず、更に遺族が拒否すればわざわざ裁判所から『鑑定処分許可状』を申請するなんてことしないでしょう?
まぁ、変死でも心不全や自殺、事故で片付けるのも少なくないし、それを知っていたんじゃないですか?」

名前も知らぬ被疑者達を見て回した。

「なっ……! なんなんだよこのガキは!!」

叫ぶ男。

「落ち着いてください!
彼女は協力者です。
申し訳ありませんが自己紹介をもう一度お願いしてもいいですか?」

目暮警部が抑え、促した。

「チッ……俺は棚田修吾、22。
経済学部4年」
怒鳴った男だ。

「野田香苗……26歳……
経済学部の……2年です……」
大人しそうなメガネの女性。

「神代絵里奈22歳!
医学部!」
気の強そうな化粧の濃い女性。

「比叡桜太、20、理科三類」
気だるそうな茶髪の男性。

計4人が現在の被疑者らしい。

「ん? ってか、神代! てめぇ医学部なら注射針位用意出来んじゃねぇか!?
しかも止血してちゃんと処置してるってことは……」

棚田が笑いながら指を指す。

「はぁ!? バッカじゃないの!?
私が犯人ならそんな特定できる凶器なんか使わないわよ!
あんたこそまぁた他学部からくすねたんじゃない!?」

言い合う神代と棚田に野田がおろおろとし、比叡は我関せずと椅子に座り欠伸をしている。

「静かにしたまえ!」

「……はぁ……で? 死後硬直やらの感じからして死後3時間ってところかと思うんだけど?」

「あぁ、死亡推定時刻は4時間から3時間前。
大体午後2時から3時だな」

トメさんが答えてくれた。

「で、この人たちのアリバイは?
ちゃーんと聞いたんですよね?」

目暮警部に問う

「あぁ、だが全員アリバイは無いに等しいな……

棚田さんは1時半から自習室、神代さんは2時から空き教室、野田さんは3時まで自宅、比叡さんは12時から図書室と、それぞれアリバイは薄い」

「図書室なら司書が目撃者にいないんですか?」

「いや、入室時ちょうど司書が書庫にいたらしくてな……退室は見たらしいんだが……」

「やけにタイミングのいい……」

「まぁでも野田さんは4時頃にこちらへ向かう姿が目撃されとるからなぁ……」

「……野田さんの自宅からここまでの片道の時間はどれくらいですか?」

「え……? 多分……1時間かからないくらいだと思うけれど……」

「……ふーん……目暮警部、私ちょっと空き教室と自習室見てきたいんですけどいいですか?」

「お? あぁ」

「……私がいたのはS23よ。
ここから10分くらい歩いたところにあるわ」

「往復しても20分だな」

「あら? 自習室なんか研究室から5分掛からないじゃない」

そう言って嘲る神代。

「え? それだけ近いならなにか物音とか聞きませんでしたか?」

殴打したのならばその音や、声くらいは、と思ったのだが、

「いや、自習室入ったら眠くなってきてな……」

バツが悪そうに頭を掻く彼。

「寝不足だったんですか?」
「いいや? 普通に8時間寝たし、急に眠くなったんだよなぁ……」

「へぇ……」

なーるほど?まぁでも推測の域を出ないから早く現場を見てみましょう。

───────

自分以外のアリバイをあやふやにし、自分のアリバイはハッキリとさせる。
しかし、あまりはっきりさせ過ぎれば怪しすぎる。

「そういうこと、ね」

真相は見えた。

───────────

「……犯人は、貴女ですよね?
元医学部、野田香苗さん」

ビクリと肩を揺らす。

「な、し、しかし彼女は……」

「アリバイは完璧ではない。に、しても貴方ならば抜け道くらい知ってますよね?
卒業生なんですから」

「はぁ!?」

「24歳っていうことは医師免許を取得後、この経済学部2年に編入したんじゃないでしょうか?」

司書が書庫で探していた本は電話で彼女が予約をした本、自習室の隅には催眠ガスの痕跡。

「そしてあなたが使用した注射針は調べればわかりますが、14Gか、それ以上。
あまり細すぎれば心臓に到達する前に折れてしまいますし、実験用具として6cmのものでも使用しましたか?
胸部表面から心臓一番近い部分で約5cm程度。心臓を傷つけて少し放置し、止血」

「そ、そんなの……あなたの推測じゃない……!」

「ええ、これは推測です。
過去のことは私は知りえませんから。
でも、あなたのもつ証拠が教えてくれました。
針の方は既に捨ててしまっているでしょう。
きっと、事故に見せれば検死を免れると思った、だからあなたは穴を見せてしまった。

針を取り付けた芯。それだけは指紋も血もついているから下手に手放せなかった。
校内から見つけたこの針、そして傷口を解析すればそれが付けられていた針が分かる。
知っていたんでしょう?ルミノール反応で血は拭っても反応する。指紋の形に血がついてしまったんじゃないですか?」

「なっ……!! そんなことないわよ!!
私は殺してない!!」

初めて感情を見せた彼女を他のものは凝視する。

「……定期、ICカードなんですね」

「え? ……そうだけど……」

「なら、そのICカードの履歴を見ればあなたがどこでそれを使いどこで退場し、どこから入場したかわかりますよね?」

はっと目を見開いて野田さんは膝を付いた。

「……そう、そうよ、私が殺したわ。
医者になろうとして培った知識を使って」

「そんな……人を救う知識で人を殺すなんて!」

「あなたに何がわかるのよ……!
あの男は医学部の女を使って薬を手に入れてたのよ……!! 馬鹿よね、使用用途を聞かずに少しずつ少しずつ……」

「薬の不正使用……」

神代さんは目を見開いて驚いていた。

「研修医にこれからなろうって時にね、向坂は『病院勤務になったらまた、新しい薬くれるんだよな?』って言ったのよ。笑っちゃうでしょう?
人を救うために医者を志したのに、人を狂わす手伝いをしていたのよ……!
断れば今までのことをばらすって!
あいつのせいで私の人生はめちゃくちゃよ! 一生あいつについて回られるくらいなら、一層の事殺してしまおうってそう思ったのよ」

彼女が流した涙は、自分が情けないからか、それとも、被害者である向坂が好きだったのか。

「……でも、私は向坂を刺殺したんじゃないわ。名探偵さん」

分かっていた。

「……心臓にモルヒネを注入したのよ
あんなに欲しがっていたから、じっくりゆっくり、欲しいだけあげたのよ!
あはははは……!」

涙を流しながら歪んだ笑顔で、彼女は連行されていった。


中学生に頼るな


人は何故、人の命を奪うのか。
だなんて、答えなどない。人の死を望む、心が分かってしまうから。

*

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