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首に重りは命の重さ



あーあ、とてつもなく面倒くさい。

「死ぬのかな……」

きっとあの父ならば見つけるだろう。
けれど、枷となってしまった自身に苛立ちが募る。

タイマーを見れば数字は09:43という数字。
目が覚めてタイマーは刻々と時を刻み、3時間と少しが経過した。

首には重い爆弾の付けられてる首輪。
後ろ手に縛られていた手は足から抜き前に持ってきたが、ベッドのヘッドボードに埋め込まれた鎖が首輪に繋がれ、部屋の扉にも届かず、上の窓にも届かない。

それに、季節は冬。
部屋には暖房設備はなく、気温は低い。
それに伴い体温も下がり、手足は悴む。
ベッドに置かれた一枚の毛布を引き寄せるも、あまり意味を成さず、体温は下がる一方である。

「さむ……」

このまま死ぬのだろうか?
死ぬのは2度目。怖くない───

「─────……って言うのは、嘘」

あんな苦しみ、また味わうのか?
また、あんな親不孝をするのか?

「……そんなの、ごめんよ……」

とは言っても手元には何も無いし、爆弾の知識は多少あれど、きちんと指導を受けた訳では無い。爆弾に関しては私は完全に素人なのだ。
爆弾解体は高度な技術と高い知識が要求される。特別な訓練や指導を受けたことのないものが下手に手を出せばきっと死ぬだろう。

具体的な時間はわからないが、襲われたのは午後4時頃。窓から見えている空は星が瞬き、既に夜なのは伺い知れた。
犯人が話した時、既に夜になっていたため、恐らく日付は超えている。
携帯もない。荷物は何もなく、ただ、制服のまま寝かされていた。

───────────────

ピンポーン

「……はい?」

「富沢日さんですね? 警察です。
少し、お話伺えませんか?」

開かれた扉の先には冴えない丸メガネの男、富沢日が立っていた。

「なんの御用でしょうか?
こんな時間に警察の方が」

平然としている男に伊達は拳を握りしめる。

「お久しぶりです。富沢さん
覚えておられますか?」

と春彦がにこやかに伊達の前に立ち言い放った。

「……おやおや、白樫監督!
ええ忘れませんよ! あなたのような有名な方を!」

と笑顔で応対した。

「そうですか。貴方の親友の犯行を暴き、警察のお世話になるようになった事を貴方に恨まれてると思いましたよ。
……私の大切な娘を奪おうとするほどに」

「何を仰ってるんですか!
犯罪を犯した者は捕まる。小学生でもわかりますよ!」

「そうでしょうねぇ……
ではあの子を連れ去り、その上爆弾を仕掛けた貴方も捕まるべきですよね?」

「何が何だかわかりませんが……貴方のご息女が誘拐されたんですか?
それなのにこんな所で時間を無駄にされては……」

ピピーーーーーッ!!!

突然けたたましい音が男の部屋から響き渡った。

「!? な、なんだ……!?」

「私の娘の携帯でしょう。今鳴らしましたのでね」

「馬鹿な! うちにはありませんよ!!
さあ、早く探した方がいいですよ!
こんな冬に監禁だなんてきっとご息女は凍えていらっしゃる!」

「……電源は切った。なるだなんて有り得ない。
きっと、鎌をかけたのだろう。
そう思っておりませんか?」

「なにを……」

「実は娘の携帯にはGPSを付けていましてね。
近くの発明家の博士に作ってもらった特別製で私のこのスイッチを押せばそのGPSが音を立てる。範囲は10km以内、あなたを見つけて自宅を範囲内に来たら、あら不思議。反応はあなたのご自宅にありましたよ」

「……へぇ、で?
それだけでは証拠になりませんよね? 拾っただけですよ? ご息女のものならばお返しします。それでいいですよね?」

富沢日はニヤニヤと気持ちの悪い笑みを浮かべている。伊達は苛立ち、男を睨みつける。

「てめぇ……!」

「貴方のその服、袖口ですよ。
白い粉がついてますね。それは石灰じゃないですか? 今週娘は体育倉庫の掃除があると言っていましてね。しゃがんだ時に毎日スカートの裾に石灰をつけて帰ってきてましたよ」

「……石灰なんてどこにでもある。
それも証拠だとは言えませんね」

「ええ。
そうですね。ですが貴方のその石灰はどこに付けたのでしょうか? なにも娘がスカートの裾につけていたのは石灰だけではありませんよ。
サビもついていたようです。そのサビも混じっています。サビというのはなかなか取れないものでね、「もういいでしょう。あなたも底意地が悪い。さっさと言ってください。錆だなんて中途半端なことでなく、さあ!」……ならば言う必要は無いでしょう。娘はどこですか」

苛立つ男にそう問う。

「さぁ。ヒントを出しましょう。
もちろん、警視庁で」

不満だった彼は簡単には場所を言わない。
刑事に連れられ警視庁へ戻る。

それは簡単な暗号。
シーザー暗号と呼ばれるもので、文字を三文字ずらすだけのものだ。

vOxY
TANTo
fD3S
jUKE
fORD
SwIFT
AqUA

適当な車種の羅列は小文字だけをずらすと
yarimizu。
八王子市鑓水。

「どうしてこんな暗号を?」

「あなた方が私にまずたどり着くとは思えなくてね。
場所を示す暗号を考えていなかっただけですよ。この暗号が示す場所の廃墟。
なに。地元では有名です。行けばわかりますよ。幕末志士が集った、その場所は。
ほら、もう時間はありません。
お嬢様が目覚めたのは22時。それから12時間のタイマーはスタートしました。
首に爆弾。背後にタイマー。さて、現在の時刻は2時。猶予はあと8時間」

「……そうですか。ひとつお聞きします。
私ではなく、娘を誘拐したのは?」

「書いたでしょう?
大切なものを失う苦しみをあなたに与えるためだ」

「てめぇ……!」

「伊達くん! 辞めたまえ!
それよりも松田くんと萩原くんと共に現場に急行だ!」

「…了解」

─────────
空はまだ暗く、タイマーは依然時を刻み、8時間を切っていた。

目を開けているのも億劫で吐く息は白いが、そんな事を気にはかけて入れない。
寝てはいけない。しかし、眠気が来てしまう。
目を閉じればそのまま寝てしまいそうだ。

そんな時

バキッとけたたましい音とともに木製の扉が破られた。

「おい! 生きてるか!?」

二人の人間が中に入ってくる。

「あ……」

聞こえた声は一ヶ月ほど前に追いかけられたあの声。

「とりあえず鎖切ってこいつから爆弾外してから解体すんぞ。時間はある」

ダメ、ダメだよ……

そう言いたいのに低下した体力と冬の寒さが体の自由を奪いひゅっと口から息を吐き出す音しか出なかった。

『それと、その鎖を切ろうとすれば────』

ボイスチェンジャーで変えられた声が頭を巡った。

「美音ちゃん、ちょーっとごめんね」

といい、萩原さんは私を抱き上げた。
彼の体温が服越しにじんわりと染みてきて温かい。
無意識にそちらへ擦り寄る。

「大丈夫……大丈夫だ」

冷たく冷えた身体を摩られる。
近くにいる萩原さんの声は聞こえるが少し離れた松田さんの声は聞きにくく、微かに

「鎖切る─────持ってこい」

とだけ聞こえる。
首を上げることも叶わず、少ししてギュインッという機械音と高いカナキリ音が響いた。
その瞬間、ビビビビビッとその音とは別のアラーム音が続いて響いた。

「ッなんだ!?」

無理矢理顔を動かし、タイマーへ視線を向ける。
この人たちがここに突入した時、時刻は8時間を切った頃であった。
しかし現在は────────

「っなるほど……鎖を切ろうとすればタイマーの時間は半分になる。こいつを離すのは無理ってか」

「このまま解体するしかないのかねぇ……」

萩原が苦笑して震える美音の肌を擦りながら言った。

「だな」

タイマーの表示する残り時間、3時間27分。

「避難させて病院連れてくのが無理ならさっさと解体するしかねぇな。
萩原ァ、ちゃんとそのガキ抱えとけよ」

「松田さん! 防護服は!」

解体を始めようとする松田に隊員が言うも

「こいつはこのまま爆弾に繋がれてるんだぞ。
俺らだけ"万が一"に備えるわけにはいかねぇ。それでいいか?萩」

と同意を求めた。

「元々俺はあんな暑苦しいの着たくねーから賛成。
俺らの命、お前に預けるぜ。陣平ちゃん」

と抱き抱えた美音の頭に顎を乗せて、萩原がにやりと笑う。

「ようやく探してたそいつに会えたんだ。
逃がしてたまるかよ」

「こんな状況じゃなけりゃ最高なんだけどなぁ……」

「うるせぇぞロリコン」

ガチャガチャと爆弾の外装を外しながら眉間きシワを寄せる松田に、萩原が思わず苦笑した。中のコードに手をかけたその時だった。

「!? おい待て!」

目の前のタイマーが倍、いや、それ以上の速さで進んだ。
コードから手を離せばタイマー速度が戻る。

「へぇ、解体中は1時間が一分ってとこか?」

「……逃げて……」

弱々しく美音の口から声が漏れ出た。

「……おねが、にげて……もう、い……の……」

「何言ってんだ。これくらい3分もかかんねぇよ」

「……も、いい、から……」

「だぁって待ってろ。さっさと病院行くぞ」

松田は彼女の頭を撫でてニヤリと強気に笑った。そんな彼を美音は目を見開いて見返していた。

「ちゃっちゃとやれっての陣平ちゃん」

「分かってるってんだろ。動くなよ?」

ガチャガチャと美音の首元で金属音が微かに鳴る。
彼女の位置からは少し視線を落とせば真剣な眼差しで爆弾を見つめる松田が伺える。

「……残り2分」

萩原が残り時間を告げる。
そして

「残り1分」

その萩原のカウントに美音は静かに目を閉じた。しかし、

パチンッと音が鳴るとタイマーが止まり、松田も手を下ろした。

「解体完了……さっさと鎖切れ!」

「り、了解!」

ギュィンッと起動音とギギギギと多少の火花を散らして鎖が切断される。
完全に切れると大きめのペンチが首に向けられる。

「動くなよ?」

パチリッ

カランッという軽い音を立てて空の鉄の箱が地面にバウンドした。

「しっ、車行くぞ。
後始末は頼んだ」

それだけ部下達に言い、萩原は美音を抱えたまま立ち上がり松田のあとに続く。

「宜しくな」

とだけ告げて。

車に乗り込むと松田が運転席に、後部座席に萩原と美音が乗り込む。
萩原は携帯を取り出し電話をかける。

「あー、班長か? 俺だよ。
爆弾解体は終了。今から警察病院向かうからご両親達と待機よろしくな……ああ、無事だよ……あ? うっせーな……あぁ、じゃあ後でな」

携帯を閉じ、ポケットにしまうと後部座席の後ろから毛布を引き出し、美音を包み込んだ。

「病院まで行けばもっと暖かくなるから今はこれで我慢してくれ」

頭を撫でて毛布ごと美音を体温を分け与えるように抱きしめた。
暫くすると震えも次第に止まり、少し落ち着く。

その暖かさに包まれて美音は導かれるように瞼を下ろした。


首の重りは命の重さ


また、生きることを諦めた。

*

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