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Avenger



不意に意識が浮上して目を開ける。
どこか暗い部屋で、柔らかいところに寝かされていた。
体を起こそうにも後ろ手に縛られている為に上体は上がらない。それに、何やら首も重い。


『やぁ、起きたかい?』


天井からボイスチェンジャーで変えられただろう声が聞こえた。

「……あんた誰?」

『私はAvenger』

Avenger、復讐者、ねぇ。

「そのAvengerが私に何の用?」

『君の父、白樫春彦に復讐する為に、
君をここに拘束している』

父さんを?
どうして?
仕事関係だろうか?
映画監督の父はその関係で恨まれるようなことはないと思ったが、実際はどうだろうか。
世界的な賞を取り、名誉も地位も確立した父を恨む人間はきっと、ごまんといる。
が、もう一つ。父は警察に協力して事件を解くことも多々あった。それこそ優作くんと同様に。


『私の相棒は、君の父に犯行を見破られて、ブタ箱に入れられてしまった。
到底許せないよ。相棒は私の全てだった。
だから、あの男にも、同じ様に大切なものを奪ってやろうと思うんだ』

「!」

逆怨み以外の何物でもない。
そんな理由でわざわざ誘拐して監禁しているのか。

「犯罪を犯したアンタの相棒が悪いんでしょうが。
馬鹿じゃないの?」

冷や汗が流れるも、ここで屈せれば思うつぼ。

『強がっていられるのも今のうちだ。
背後を見てご覧』

そう言われ、背後の壁へ目を向ける。


「な、に……!?」

『先ほどスイッチを入れた。
その爆弾は威力はさほどないが、その部屋くらいは吹き飛ばす。
せいぜい父親を恨むんだな』

クスクスと笑いが漏れている。

壁に埋め込まれた赤いランプとタイマー。
時刻は12時間を示している。

暗かった部屋がそのランプで少し照らされると重い首にはプラスチック爆弾が下げられていた。

─────────

「美音くんの居場所はまだわからないのか!」

時刻がわからない美音とは打って変わって、現在の時刻は午後11時。
タイマーが入れられた時刻である。
警視庁捜査一課、強行犯係では捜査員や応援として呼ばれた所轄刑事が駆け回っており、春彦と優作が頭を回転させていた。

「落ち着いてください
今捜査員総動員で探しているんでしょう?」

「だが居なくなって6時間だ!
残された手紙には「我が名はAvenger」「猶予は18時間」あと12時間しかないんだぞ!?」

「復讐者、ということは私に復讐する者でしょう。私が解決した事件で、その犯人と親しい人間ではないでしょうか?」

「っ……なるほど……
白樫くんが関わった事件の犯人周辺の人間を洗いだせ!」

「「はい!」」

一見冷静に考えている春彦も苛立ちが募っており、右足は、撮影が滞った時のように小さく小刻みに振動している。

室内はピリピリとした空気が占めている。

美音が下校途中に姿を消した。
前触れもなく消え、自宅のポストには手紙が投げ込まれていた。

指紋も無し、文面はワードで打ち込まれており、筆跡鑑定は不可能。
宛名、差出人も書かれておらず、直接自宅ポストに投函されたことは明白であった。

『白樫春彦様

お嬢様をお預かりしました。
命の猶予は長く見積もって18時間。
それを過ぎればお嬢様の命は綺麗な花火となってこの世から消えるでしょう。
さて、見つけられるかな?
我が名はAvenger』


「さて、見つけられるかな? ……か……」

「ここだけ口調が違っているね……警部、捜査資料の方は?」

「春彦くんが関わり解決してくれた事件はかなりの量になるが、身の回りにこのような事件を起こしそうな人間がいたであろう犯人の事件はこれくらいだろう」

「助かります……『見つけられるかな?』……あった、この男だ」

開かれたページは『米花町4丁目爆弾魔脅迫及び妊婦殺害事件』。

「これは……」

「捕まった犯人は単独犯。
しかし、共に爆弾を生成したのは大学時代の同級生だろう男。富沢日。
彼は事件には関わっていなかったことと、危険物取扱者であったことから不起訴処分となっている」

「なぜこの男なんだい?」

「この事件は、犯人である川崎隆之が出した脅迫状がきっかけだった。
『拝啓、桜舞う季節になりました。
春は全てを奪う。君も春に去っていった。
腹に汚いものを抱えているお前を浄化する。
許さない。周りの者も巻き添えになる。
さて、私からのプレゼント、見つけられるかな?』というものだ」

「手紙の引用……どうやら犯人は君に分からせたかったようだね」

「あぁ、全く……」

───────────

一課の方が何やら騒がしい。
なにか事件があったのかと、喫煙所にいた伊達を捕まえる。

「よー班長!
こっちにいるなんて珍しいな。どうした? なんか事件か?」

「んだ、萩原か」

「なんか騒がしいと思ってな〜」

「誘拐事件だ
警察に事件解決に協力してくれた人の娘さんがな」

「へぇ〜〜そりゃあ大変なこった。
復讐か?」

「多分な」

ふぅっと紫煙を吐き出す。

「お前らここにいたのか」

「おー陣平ちゃんもまだ居たんだな」

「あぁ」

煙草に火をつけ煙を上らせる松田。
誘拐か、協力者ってことは情報屋かその手の人間か?

「で? 誘拐ってーのは」

「……はぁ……ったく……
去年の米花町4丁目で起こった爆弾脅迫と妊婦殺人覚えてっか?」

「あー、あったなー
俺と陣平ちゃんで解体したんだっけか?」

「そうだったな。
その犯人の知り合いが復讐のために誘拐ってか?」

「だろうな……
まだ分からんが……それと、監禁場所が割れねぇからな……犯人らしい富沢日を引っ張るのも証拠が弱すぎるしな……時間もねえってのに……」

ガシガシと頭を掻く伊達に苦笑すると

「伊達さん! 許可降りました!
白樫さんが富沢の家の10kmの範囲に入ったところ、美音ちゃんの携帯に潜ませたGPSが富沢日の家を指してます!
今から本庁と所轄で向かいます!」

「よしきた! じゃあな!」

白樫美音……?

「おいおい、まさか……」

「班長! 誘拐されたのって───」

「あぁ!? うちでも良く協力してる中学生のガキだよ! ……で、美音の携帯がそっちにあるってことは富沢引っ張って場所聞き出すしかねぇってか…!」

見つけた。

「ええ、ですが……猶予はあと10時間です……
押さえたとしても相手は……」

「……松田、萩原。
監禁場所を割次第、お前らに爆処理頼めるか?」

こちらを振り向かず問う伊達。

「当然だろ。さっさと割れよ」

「頼んだぞ」

そうして班長は部下と共に去っていった。


Avenger


誘拐されたのはきっとあの子だ。


*

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