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神は簡単には許さない



『え!?』

突然隊員の声が響く。

『どうした?』

ガチャガチャと重苦しい音に布のこすれる音が響く中、恐ろしいことを口走った。

『犯人からの新たな声明です!
この建物にまだ爆弾があるそうで……!』


はぁーーーー!?!?!?!?
マジで言ってんのかテメーー!!!!!!
まぁそう簡単にはいきませんよねぇ!!!!

『なに!?』

『防護服もう1度着ますか!?』

『んなモン着て探せるか!』

そうだね!!

足音が聞こえるが、萩原さんの声はまだ遠のかない。
おかしい。盗聴器は爆弾の近くへ仕掛けたはずだったのに。解体中に手にでもついたか?いや、そんなわけない。足音が大きいということは靴にでもついたのだろう。
しかし、これは好都合だった。

『建物内探したんじゃねぇのか!』

『全フロア廊下と20階までの家宅は捜索したんですが……ここより上は捜索してません……!』

ほんと馬鹿なの!?
全フロア探せよ!!!!!!!

『ちゃんと捜索しろ! くっそ……どこだ……!?
マスターキーお前が持ってたな!?』

『はい!』

しかしあんな犯人が一般家庭と言えど家宅に侵入し、不審物を設置し、見つからないようにするなど出来るとは思えない。
考えろ。考えろ。この辺は高層階で資産としては十分だし、かなりの入居数…
しかも空室なんてものは無い。

待て、空室はないが、空室同然の部屋は、この、城ヶ崎家の所有する…この部屋があるではないか。

その考えに至って、サッと顔から血の気が引く。
なぜ昨日ちゃんとこの部屋を調べなかった?
確認を怠った自分が一番悪い……!
しかし、きっとこちらの爆弾は本命ではない。
恐らく、逃げた隊員や、周りの者への追い討ち用だろう。
ふざけた真似をしてくれる。
遠隔操作をされては困るが妨害電波を飛ばす余裕はもうない。鞄から引き抜いた使う予定のなかった博士に一番最初に作ってもらった電波遮断機を起動して周囲の電波を完全遮断する。

『あ、あれ? 無線が入らない……!』

『今は無線必要ねぇだろ! くそ……ここにもねぇ……! ほかの部屋だ! 手分けして探せ!』

今彼らは21階を捜索している。

どこだ? どこにある?
一心不乱に室内をかき回す。

机の下、ソファーの下、引き出しの中、キッチンの収納、棚、ガラスケース……

なんで!? どこにもない!?

『22階だ! 上に上がるぞ!』


落ち着け、ここは高層階。
侵入経路は玄関の扉。下手に侵入し部屋に遺留品を残せばアウト。だとすれば、

廊下を駆け抜け自身のローファーだけが置かれた玄関にたどり着く。
今の今まで忘れていたが、恐らく爆弾には水銀レバーが付けられている。
今までの荒さで探して見つからなかったのは幸いだった。
慎重に空の靴箱を開く。

ピッピッピッピ

赤い数字が時を刻んでいた。
どうする? 数字は5分を切ろうとしている。
見つかったとして、逃げ切れるか?
どうする、しかし、ここで発見が遅れて皆が死ぬのだけは避けねばならない。
ならば、

鍵を開け、チェーンロックを外して扉を蹴り開ける。

バンッ!!

「な!?」

「爆弾はここです!」


あぁ、今ほど変声機が欲しいと思ったことは無いな。

「おいおい……! 住民の避難は完了したんじゃねーのか!」

「そのはずですが……!」

「そんなこと言ってる場合じゃないでしょ!?
爆弾のタイマーはもう5分を切ってるわ!
水銀レバーがあるかもしれないし動かせないんだからさっさとみてくれない!?
ここで全員死ぬ気!?」

こちとら精神年齢的にはババアなんだぞゴルァ!!!!!!

「その嬢ちゃんの言う通りだ……みんな配置につけ! 嬢ちゃんは離れてな!」

「まだ荷物があるから中にいます。
その爆弾なら解除に3分もかからないでしょう?」

中にいないと飛べないじゃない?
挑発するようにわらうと萩原さんがニヤッと笑い

「カワイイ子にそんな風に言われちゃ、期待に応えなきゃねぇ」

と爆弾に目を向けた。

「なるほどな。触らなかったのは懸命な判断だな。ちゃーんと水銀レバーが設置されてる。
構造は単純だしさっきよりは威力も低そうだ」

と手際よく爆弾を解除していく。
さすが。やはり彼は優秀だ。この犯人に陥れられさえしなければ、彼も第一線で新一の助けにすらなってくれるはずだった、いや、そうなってくれるだろう。

「よし、解除……っておいおい何してんだお嬢さん……!?」

解除が完了したらしい彼は、私を見て目を見開く。
それもそうだ。ローファーを履き、肩には鞄。
普通な姿に戸惑うのは私がベランダの手すりの上に立っているからだ。

「馬鹿な真似はすんなよ!? 折角爆弾解除して生きれるんだぞ!?」

「やだなぁ、死なないですよ。
ここから降りるだけで
私はまだ、あなた方に知られるわけにはいかないんです」

あー、でも目暮警部通されたらバレるかもな…

「いやいや! さっさとこっちに来なって……!」

「……おにーさん。覚えててくれて、ありがと」

そう言うと萩原さんは目を見開いてこちらを凝視する。
やっぱり、うまく笑えない。
本当に嬉しいと思うのに、彼にまた嘘をつくから。

「まさか……あの時のお嬢ちゃん……っておい……!?」

そう言われた時私は手すりから外に足を外す。
宙ぶらりんで下を見る。
もちろん高さは尋常じゃない。でも、大丈夫。
少しずつなら降りれる。アレックスに教わったじゃない。自分の技術を信じろ。


─────飛べ


そして、急降下。

腰に巻いたベルトからは手摺に向かって伸縮性の高いベルトが伸び、手摺には鉤爪が引っ掛かっているからただ飛び降りたわけじゃない。

アレックスに指導してもらった体勢でしっかりと下まで降りる。

10階位まで降り、その住宅のベランダに降り立つ。
そして、上からベルトを回収しようとした時
「逃がすか!」
と声が上から聞こえた。

うわぁ、まじ? 鉤爪持たれてんじゃん。

かわいた笑いが思わず漏れる。
仕方が無い。

ベルトの一度も押したことのないボタンを押すとベルトと鉤爪を繋ぐ部分が外れバックルにベルト部分が戻る。

もう鉤爪はないから一発本番。
大丈夫。私の師匠はあのアレックスよ。
ベランダの手すりを蹴り、背の高い木に飛び移る。そして、今度は地面に降り立った。

周囲に人は居らず、バレていないようだが、誰も連絡を下に入れなかったのか────?
と疑問に思った時、妙に軽い鞄に違和感を感じた。

「……あれ? ……あ」

やっべ、パソコンと遮断機、部屋に忘れた……!? てか電波遮断したままだ!! それでか!
取りに戻ることは出来ない。
パソコンは諦めるしかない。まぁ、持ち運びの小型用だし、大した情報も入ってないし……

しかし、やはり勿体ないとため息をついた。

仕方がない。
彼へヒントとして与えておこう。


神は簡単には許さない


後日玲香から

「何危険なことしてんの!? しかもうちの所有から出てきたからって警察きたんだけど!?」

と叱られました。
まぁうまく誤魔化してくれたみたいだけど!

*

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