聞けば落ち込む君たちへ
諸伏さんが亡くなったこととなっているのは、あの日いた降谷さんへ赤井さんが恐らくそう伝えてるだろう。
表向きには生きている。所在は教えられない。
しかし、裏向きには死んだこととなっている。
赤井さんには生きている事は知られていて、でも恐らく今後自分も同じ手法で追跡を逃れる彼ならば上手く立ち回ってくれるだろう。
……めっちゃくちゃ今更だけど、過去にカッコつけて9年後とか言った記憶あんな……
バレてないからいいか……
ただし、どこかで内々にはネタばらしをするべきだとは思う。
スコッチ、諸伏さんの実力は必ず組織を潰えるのに力になってくれるはずだ。
出来れば、まだ子供の可愛い従兄弟が可能な限り辛い思いをしないよう。
もしかしたら、諸伏さんの訃報は降谷さんから松田さん、萩原さん、伊達さんへ伝わるかもしれない。
「そんなに項垂れてどうしたの?」
苦笑している死んだ人の顔を見て、ため息をついた。
「いつネタバラシするかなー、と考えてましたよ」
「ネタバラシね……」
あの公安──降谷零と、FBI、ひいては赤井秀一との確執はどうするべきなのか。
仲良しこよしなんてありえない。いがみあう関係性がであるはずだ。
「───君はどこまで知っているのか分からないから名前は出さないけれど……
俺の同輩はあの時屋上にいた男とは結構仲が悪くてね、
俺が死んだことで余計奴は彼を嫌うかと思う」
数ヶ月、定期的に彼と会い、話をし、情報の整理をしていたせいかぽつりとそう漏らした。
「……知ってます。でもそれはあの人の実力を知っているから……ですね?」
「なんでそんなことを知っているんだ?
組織内の交友関係まで把握してるってことかな?」
「エッあ〜いや〜……そういえば……私に松田さん達宛の手紙を渡したってことはあの人達と知り合いなんですよね?」
マズった。さすがにこれは昔見た物で今知りようがなかったや。
誤魔化すように聞いたことを、恐らく誤魔化しだとわかった上で
「あぁ、警察学校の同級でね。
俺と班長──伊達と松田と萩原、それに……ゼロ。
5人でね、成績優秀な班長とゼロも居るのに何度も罰則を受けたり、結構問題児だったろうなぁ鬼塚教官からしたら……」
と、諸伏さんは答えてくれた。
先の言動から知ってるんだろう。という言葉が聞こえる。
「えっ……まぁ……公安と爆処理じゃそうでも無いとたしかに接点無いか……捜一ならまだしも……」
「いや、警察内の組織だし顔を合わせないわけじゃないからそうでも無いよ。
ただ、俺は潜入捜査官だったし、そういう意味では同期生でもなけりゃ接点はないし会ったりしてなかったろうね」
「あ〜なるほど……あ、そういえば……
手紙、実はまだ渡してないんですけど……渡した方がいいですか?」
「そうだなぁ……表向きには生きていて、裏では死んだ扱いになっている状態だからなぁ……」
また苦笑いを浮かべ頬を小さくかく彼
「……確率は低いけど、ゼロから3人に死んだ事が伝えられるかもしれないし、無いかもしれない」
「……そうですね。それにかけて手紙を?
これをお前が読んでるということは俺はもうこの世にはいない────的な?」
「どこのドラマ?
そんな直球的な物じゃないよ。ただ、察される可能性はあったけど、短くとも濃い時間を過ごして……俺の過去の精算に付き合ってくれた連中だから、何か言っておきたかったんだ」
「……じゃあ渡さない方がいいですね。
ちゃんと面と向かって伝えた方がいいですよ。折角生きてるんですから」
死ぬ瞬間の、死を覚悟したあの時の多くの後悔はまだ、味わうべきじゃない。
どんなに覚悟していても。
「なんなら私を使ってサプライズでネタばらしを前提ってことでお手紙書き直してもいいですよ」
ニヤリと笑ってそう言えば
「あれでも優しい連中でね。
俺が死んだって聞いたらへこんじゃうよ」
聞けば落ち込む君たちへ
そういえば、隠しておくならここに来ないようにしないとな……
そんなことを考えてるうちに、3枚のコピー用紙にそれぞれたった一文だけ書いた手紙と呼べるか不明なそれが、封筒へ仕舞われた。
さてはて、彼はなんと書いたのか。
*
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