前編の続き






▼狼とオオカミ[後編]


忍足が家に来る当日。
ジローに場所を教えてもらって忍足が俺の家まで来てくれる約束。ちなみに泊まり。弟たちはいるけど親はいない。
おとすには最高のチャンス。

迷ったらいけないと思い、家の近くで待っていると忍足らしき人影が見えた。

「おーい忍足こっちだぞぃ!」

言いながら駆け寄って忍足の荷物を持ってやる。
外は寒かったのだろう。ぐるぐる巻きにしてあるマフラーから赤い鼻と耳がのぞいている。

「よう丸井。今日よろしゅうな」
「おう!」


少し冷えた手で玄関を開けると同時に騒がしい足音が聞こえてきた。

「「兄ちゃんおかえりー!!!」」
「おう、ただいま」
「あれ?兄ちゃんその人誰?」
「違う学校の友達。忍足侑士。」
「おしたり?変な名字ー!!」
「うるせえぞお前ら!さっさと部屋行って宿題してこい!」

ギャハハと笑い声をたてながら部屋に戻っていく弟達。何歳になってもうるさいガキだ。

「悪ぃな、アイツらうるさくて…って忍足?」

下をむいて肩を震わしている忍足。え、何コイツ。もしかして笑ってる?

「自分ほんまおもろいわぁ…」
「何が?」
「自分でもよう分からんけど、なんか…なんやろな」
「はあ?なんだそれ」

内心俺はドキドキだった。こんなに笑顔の忍足を見たのはそれがはじめてだったから。なんでこんな伊達眼鏡がかわいく見えるんだろう。

「ほら、俺の部屋行くぞ」

忍足の手をつかんで部屋までぐいぐい引っ張っていく。
楽しい話をわちゃわちゃとしている隙はない。俺は今日中にコイツをおとすんだ。忍足のペースにのせられてはいけない。そう自分に言い聞かせながら階段をあがっていく。


なのに、いつもみたいに集中できない。横顔綺麗だなあとか鼻筋通ってるなあとか、話していても忍足の顔ばかり見てしまう。
自分はもしかして緊張してるのだろうか。

「…なんや丸井、さっきから人の顔ジロジロ見て」
「えっ?あぁ悪い!綺麗な顔してんなあと思ってよ」

ついつい言葉が出てしまった。でもこれでおちねえやつはいねえだろぃ。「綺麗なんて初めて言われたわ。おおきにな。」


…見事にかわされた。
なんなのコイツ。なんでこんなに余裕なの。むかつく。

「……」
「…丸井?」
「……」

俺が黙ったままでいると忍足が小さくため息をついた。

「丸井って……俺のこと好きやろ?」
「………え」

本当に何コイツ。なんでいきなりこんなこと言ってくるの。俺が好きってのは知ってるんだろうけど。なんなのちょっとどうしよう俺。

「俺のことが好きやから最近よくメールしてくれたりしてたんとちゃうん?」
「そうだけど…」

全部ばれてた。完璧に。

「丸井は俺と同じや。おとされるよりおとすタイプ。やから俺をなんとかしておとそうとしとった。せやろ?」

いじめっ子のような余裕の笑みで俺を見下ろしてくる。さっきまで綺麗だと思っていた横顔が今は憎たらしく見える。

決めた。もう正攻法で行く。

「うるせーな」

ベッド際に座っていた忍足を押し倒す。身長は小さいが力には自信がある。

「おー怖い怖い。なんや丸井。襲ってくれるん?」

俺の方が上にのっかってるのにどうみても下にいる忍足の方が優位にたっている。もう完全にコイツのペースになっている。なのに、なんだろう。この引き寄せられるような感覚は。


「襲ってほしいんなら襲ってやるよ?」


返事を言う隙も与えず噛み付くように口づけると忍足の唇から苦しそうな声が漏れる。

「んっ…ふぅ…」

やっと口を離した時には忍足の息が荒くなっていた。

「…っ自分、ちょっと急ぎすぎやで」
「だってふられるの前提で告るとかぜってー嫌だし。なら無理矢理俺のもんに…」
「……丸井」
「何だよ」

「好きや」

「………は?」

こいつはまだ俺をからかっているのだろうか。

「だから、好きやって言うとるんや」
「まじで?」
「俺は丸井が好きや。お前が俺を好きになる前からな」

呆れたようにため息をつきながら忍足が俺に言ってくる。身体を支えている手の力が抜けて、一瞬体勢を崩しかけた。

「じゃあ何?おとすおとさない関係なくて俺がお前好きになった時点で俺達両思いだったわけ?」
「そうなるな」

なんだろうこの虚しさは。ていうか疲れた。

「あーあ、なんか頑張って損した」
「俺は楽しかったで?丸井がガンガンアプローチしてきてくれて」
「なにお前むかつく」
「丸井も言うてや」
「は?」
「俺に告白してくれへんの?」
「今更言わねーよ」


照れ隠しにそう言うと少し残念そうに眉を下げる忍足。これがわざとだったらもうコイツのことなんて信じられないと思ったけど、もうそんなの関係ない。かわいすぎ。

「こっち向け忍足」

ゆっくり俺の方に顔を向ける忍足。

愛しい彼の頭を撫でながら自分の方へ引き寄せる。忍足の胸から感じる鼓動は決して嘘ではないから。唇が触れ合う前の一瞬。小さな声で囁いた。




「大好きだぜぃ侑士」












――――――――――――――――

茶様との相互記念小説です。
遅くなってしまって申し訳ありませんでした。

なんかもう本当に申し訳ない気持ちでいっぱいです。忍足さん家の侑士くんがこんなに難しいとは思いませんでしたすいませえええん!!
しかもこんな長々とうざったくて…うわあああ関西弁難しい…!!!

とにかく相互ありがとうございました。これからも末永くよろしくお願いしたいです。





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