▼雫の出所と理由
クラスの奴らと喋っている時にさりげなく窓際によって校庭を見る。これはもう最近自分の癖になっていると思いなんとなく悔しくなった。
サッカーや野球をしている大勢の生徒の中でもすぐに見つけてしまう。厄介な赤毛発見。
丸井は部活のメンバーで、クラスも同じだったから自然と仲良くなっていつも一緒にいるようになって………でも今は1日1回挨拶するかどうか、みたいになっとる。まあ、俺のせいなんじゃが。
話聞いてんのかとかいちいち言ってくる友達の話は右から左へ軽く流してまた校庭に目を向ける。
笑顔の丸井が視界にはいり可愛いという気持ちと同時に寂しさが生まれてくる。あの無垢な笑顔は少し前までは自分に向けられていたのに。
(髪の毛ぐしゃぐしゃにしてやりたいのう…)
丸井とこんな状態になったのはちょうど1週間前
今日みたいに晴々とした天気で、丸井はお気に入りのガムの新しい味が出るとかで朝から機嫌がよかった。
俺は朝からそんな丸井を見て可愛い可愛いと思っとると同時に必死に理性を抑えていた。丸井のことがそういう意味で好きだったから。
この可愛い奴は恋人同士になったとしたらどれだけ可愛くみえるんだろう。抱いたらどんな声をあげるんだろう。
そんなことを毎日の様に考えながらも丸井とは友達としてうまくやっていたと思う。自分の気持ちも悟られていなかっただろう。
その日丸井に遊びに来いと家に招待された。俺に言いたいことがあるらしい。誘われた時点で俺は嬉しくて内心子供みたいにはしゃいでしまった。
なのにお前は、
「俺、最近気になる奴できてさー…」
うっすらと頬を染めながら少し緊張したように俺に伝えてくる丸井。
その時俺の理性が切れた。嬉しくてはしゃいでいた自分も全部ぐしゃぐしゃにして捨ててしまいたかった。何もかも消してしまいたかった。
その全部をぶつけるように、俺は丸井を抱いた。荒々しく丸井の全てを暴いた。
理性なんてもうほとんど残っていなかった。ただ丸井の内股から血が垂れているのを見たときにひどい罪悪感に襲われた。
丸井も最初は必死に抵抗していたが、最後は目を閉じて静かにこの行為の終わりを待っているようだった。ひどい痛みだったろうに丸井は行為中一度も涙を見せなかった。
あん時の自分を殺してやりたいと漠然と思ったけれど、今もし丸井にあんなことを言われたら自分はまた同じことをするんじゃないだろうか。馬鹿らしいと思いながらもこんなことばかり考えてしまう。すると後ろから声をかけられた。
「おい、仁王。ちょっと顔貸せ。」
丸井の声だ。
「なんじゃい」
声が裏返ってしまうんじゃないかと思ったが、思ったよりも冷静な声が出た。
「…いいから来い」
丸井について行くと人気のない校舎裏に出た。
しばらくは二人とも無言だった。俺は丸井からの言葉を待っていた。丸井も俺の言葉を待っているようだった。
最初に丸井が口を開いた。
「なぁ、仁王…なんであんなことしたんだよ」
「……」
「おいなんか言えよ。」
なんだか丸井の顔を見ることができなくてずっと俯いていた。丸井の声が急に小さくなった。
「……仁王さ…もしかして俺のこと好きなの?」
何を言えばいいか、分からなかった。ずっと好きだったと好意を伝えればいいのだろうか。でもそれを言ってどうなる。好きだったら無理矢理犯してもいいのか。いや、いいわけがない。だったら、
「そんなわけないろう。男同士じゃぞ?いつも余裕ぶって天才的とか言ってる自信家な丸井がどう壊れるんか見てみたかっただけじゃ。他の気持ちなんてこもっとらんよ。」
驚くほどスラスラと言葉は出てきた。元々台本が用意してあったかのようにその言葉は淡々と口からこぼれ、驚くほど無機質だった。
「じゃから…」
「もういい」
未だ尚喋り続けようとする俺の口を丸井の口がふさいだ。
ほんの一瞬、軽く唇が触れ合った。
「仁王、知ってた?俺ずっとお前のこと好きだったんだよ」
呆然とする俺の横を丸井が颯爽と駆けていった。俺はただただ呆然とするしかなかった。意味の分からない阿呆のように立ち尽くしていた。
唇の感触なんて残っていなかった。あんな一瞬の触れ合いじゃ、分からないではないか。
ただ、唇が触れ合ったと同時に微かに触れた丸井の頬が小さく濡れていた。
終
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