「まーるい」
「ん?」
「愛してるぜよ」
「…はいはい、そういうのはどっかの可愛い女の子に言ってきなさい」
「今はもう丸井一筋なり」
「そりゃどうも」
「本気じゃのに…」
信じてもらえない
俺は丸井に嘘つきと思われているらしい。発言すべてを嘘か冗談と見なされいつも冷たくスルーだ。
さしずめ今の俺は狼少年状態。
確かに今まで男女関係なく色んな奴らに嘘っぱちな愛を吐いてきた。近づいてくる奴も多ければ敵もまた多い。そんな無茶苦茶な俺に媚びるでもなくけなすでもなく本当に自然体で接してきたのが丸井。
最初はただの興味本意からはじまって、だんだん丸井のことを恋愛感情のような目で見るようになった。
慣れてくると俺のことなんて全く興味無いような顔をしながら気づくといつも傍にいて。時に甘えただったり急に男前で頼りになったり自分にはない表情をたくさん持っている丸井に俺は完全に、惚れた。
なのに今その気持ちを全く信じてもらえないこの悲しさ。
自分から思いを伝えたいと思ったのは丸井がはじめてだというのに。
ああ、結局狼少年の最後はどうなったんだろうか。
羊飼いである少年は毎日のように狼が来たという嘘をついて周りの人々をからかい、本当に狼が来た時には誰にも信じてもらえず。結局。
(…考えるのはやめじゃ)
フラれてもいいから真剣に気持ちを伝えたいなんて綺麗事を言う度胸なんてない。俺が丸井に気持ちを伝えたら確実に今の関係は崩れる。丸井が困り果てた顔をするのも目に見えている。それはそれで少し見たいような気もするけれど。
「おーい、仁王こら」
はっと気づくと目の前に丸井の度アップ。少し紫がかった大きな目が俺を見つめている。どきっとした。
「なんじゃい」
「ガムくれ」
「…もうなくなったんか」
「別にいいだろぃ、お前のガムは俺に渡すためにあんだよ」
「そういうの恐喝っていうんじゃよ」
人がこんなに悩んでるってのに。なかば呆れながらズボンの右ポケットから緑色のパッケージをしたガムを差し出す。味はもちろんグリーンアップル。丸井の大好きなガムだ。
「おお!これ俺の好きなやつじゃん!サンキュ!」
満面の笑みをこっちに向けてくる丸井。
ああもう可愛すぎじゃ。今すぐその頭をこっちにひきよせてキスしてしまいたい。
「あ、じゃあこれお礼にやるよ」
渡されたのは前に俺が美味しいといって食べていたチョコ。甘い物が苦手な自分でも食べれる甘さ控えめで少しビターな味。苦いから嫌いって丸井は言っていたけれど。
けれど?
「それ200円もすんだからな!心して食べろよー」
そう言って目線をそらす丸井。頬が少し赤くなっているのがチラリと見えた。ああ、もう。
冗談と思われてもいいから明日も好きと言ってみようと思った。そしてまた俺は丸井の為にグリーンアップル味のガムを買って。笑顔が見られればいい。
たったこれだけの関係をひどく愛おしく感じる。
金色の包み紙を剥がして焦げ茶色のチョコを口にいれた。なんだかいつもより苦い味がした。
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続くかもしれない。
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