▼詐欺師の思案


ブン太と付き合って三ヶ月がたった。俺達が付き合ってるとかそういう噂は全くきかない。
俺達自身も、両思いであると分かったことくらいしか特に変わっているところはなかった。
恋人みたいなことといえば軽いキスを少したくらい。もちろんセックスなんてまた夢のまた夢ぜよ。
今もブン太の部屋で二人きりだというのに、ブン太は菓子を貪りながらゲーム中。
付き合う前と何も変わっていない。

でもそう思ってるのは当人達だけのようで。特に意識はしていないのに部活のメンバー達にブン太とのことを言われるようになった。
「なんか最近二人の雰囲気違うね」とか「たるんどる!」を連呼されたりとか「最近二人でいる時多いっスね」とか、いろいろ。
言われた時はちゃんと恋人同士なんだと実感して嬉しかったけれど、同時になんだか他人の話をされているような違和感があった。

ブン太のことは可愛いと思うし、今セックスしてもいいよとか言われたら喜んで飛びつくだろう。でも今まで付き合ってきた奴らとは何かが違った。
何が違うと言われればまず一番の違いは性別だろう。でも男同士で付き合うというのには元々抵抗はなかったし、周りにもそういう友達がいたからブン太と付き合うのも普通に受け止めていた。でもあらためて考えてみると自分はそんなにブン太のことが好きではないのかもしれないと思ってしまう。

同じクラスで部活も同じで距離はだんだん近くなってきて、恋人や親友というよりも家族のような存在になってきたブン太のことを自分はちゃんと恋人として見ているのだろうか。
このままの気持ちでブン太と付き合っていてもいいのだろうか。


今ブン太に別れ話をしたらどうなるんだろう。


ふとそんな疑問が頭にうかんだ。多分俺は何も感じないし、案外ブン太も「いいぜぃ」と呆気ない返事を返してくるかもしれない。そんでおしまい。
明日からはまた友達のような家族のような関係。

…なんだか虚しいので実行するのはやめておくぜよ。


まあ、あと一ヶ月くらいこの関係が続いたら別れを告げるのもありかなと思った。元から恋人同士という型に縛られた関係は好きではなかったし変に束縛されるのも癪に障る。要はめんどくさいってだけだ。
でもやはり目の前にいる赤毛を可愛いと思う気持ちは本物で。ただそれが好意に繋がるかと言われたらそれはまた別という話だ。

(中学生の付き合いなんてそれくらいでいいんかもしれんのう…)

そろそろ考えるのにも飽きてきて未だゲームに奮闘中のブン太を邪魔してやろうと振り向くと、ちょうどブン太と目が合った。
色素の薄い瞳が俺を真っすぐに見つめる。今まで考えていたことがすべて知られているような錯覚がして、少し顔が強張った。


「なあなあ仁王ー雅治くーん。」
「なんやのブンちゃん」

ふざけたように自分の名前を呼ぶブン太。でも顔は全く笑っていない。
ブン太がこっちに体を傾けてきたことによって二人の距離が急速に近くなった。目はずっと合ったまま。そのまま唇が重なって。キスされた。

「…どうしたん」


好きだからとでも言うのだろうか、この男は。好きだからキスしたのだとでも言うのか。



「んー……したかったから?」

いたって真面目な顔で伝えてくるブン太。

言っていることと表情のギャップが面白くてつい笑いそうになったが、なんとなくそんでいいかと納得した。キスする理由なんてそんなもんか。
確かにそれでいいのかもしれない。


笑いを堪えながらもう一度目を合わせると、ブン太が小さく微笑んだ。気がした。



(全く…コイツにはかなわんのう…)



今度は俺から。愛らしいその顔にキスをした。












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