興味0の代償
たいして好きでも無い相手から好かれる辛さはある意味一番の地獄かもしれない

今日もロランとキャンディスから痛いほど視線を送られ、ペタからは哀れみを含んだ表情をされる

お前モテモテで羨ましいと斜め下にズレた事をぬかしやがったコウガはどっかに飛ばしといた


そんな事から始まった1日、大勢のチェスの兵隊が任務や修練の門で修行の中、私はクイーンことディアナ様に頂いた仕事部屋で6thバトルで大破したピノキオンの修理に取り掛かっていた

体の修繕が終わり、さて顔に手を入れようと修繕器具を持ち替えたところで邪魔が入った

何時も玉座でふんぞり返って隣にペタを置く我らがNo.1ナイトで一応司令塔なファントム様だ

ファントム様は有無を言わさずに私の背後に身体を預け、人の迷惑も考えずに手元を覗き込んでいる

「重いのでさっさとどいてくれませんか司令塔」

「キミが何をしているのか気になって」

仕事をこなす最中首回りに手を回され後ろから体重をかけられているので非常に効率が低下する。時々髪の毛を一房勝手に弄り、飽きたら別の、飽きたら別のを繰り返す、うざったい事この上無い。

取り合えず反応しないのも失礼なので「見りゃわかりますよね」、と返しておいた。ぬわーにが「キミが何をしているのか気になって」、だ

少し前まではペタにちょっかいを出していたと言うのにどういう事だ


そもそも私がこうしているのはカルデア時代からクイーンの家で使用人として仕えていたのがきっかけでカルデアで消息を絶った「ディアナ様」に後にチェスの兵隊に入る事を持ちかけられそのまま入っただけであり、司令塔ことファントム様の思想と理想がどうだろうと私には一切の興味も関係も無いことだった

同じくクイーン直属のナイトのマジカル・ロウとピノキオンが司令塔の事をどう思ってるかは知らないが


「見てもわからないって答えたら、キミはどう反応するのさ」

「そんな鬱陶しい髪形をしているから視力が下がったんですね、と答えた直後に視力回復関係のホーリーARMの使用をお勧めします、と助言します」

それと人の髪の毛を弄くるのは止めて下さい、と付け足した。


そんな感じで適当にあしらい今日の仕事を進め、司令塔の存在から現実逃避をする為に今後のことについて考える。

一応私もナイトクラスのはしくれだ
ウォーゲームに参加しないと言う選択肢はほぼ無いに等しい

それは別にかまわないのだが気になるのは敵対するメルのメンバーにドロシー様がいる事

カルデアで悩んだ末、最終的にはディアナ様に忠誠を誓いチェスの兵隊の一員となったが、正直ドロシー様と戦うのは遠慮したい

あの家を裏切りチェスに入った事はとっくの昔に耳に入っているだろう
それを踏まえてもどんな顔をして顔をあわせればいいのかがわからない

殺される事も、嫌われる事も、最悪敵対する事も覚悟でチェスに入ったと言うのにおかしな話だ


「そうだ、ボク前に暇でピノキオンと話をしてて聞いちゃったんだけどさ

キミ、クイーンの家の使用人だったんだって?」


司令塔の人の考えを読んだかのような言葉にピノキオンを修繕する手が止まる。
空の手で何もない宙を掴み、少しして手が震え出す


余計な事を


ディアナ様とドロシー様の思い出の象徴とは言え、目の前にある人形を叩き壊してしまいたい衝動に駆られる。壊したい壊したい壊したい。


「…だったらどうしたって言うんですか?あなたには関係無いことですよね?」

「うん、確かにボクには関係のない事だ。人の家庭事情に口を挟む気も無いよ。

話は変わるけどさ、キミはまだウォーゲームには参加して無かったよね?ナイトクラスの1人だと言うのに」

「…ナイトクラスだからと言って全員が全員参加する義務はありません」

「そうだよね」


体が軽くなる
と同時に座っていた椅子の背を引かれそのまま床に叩きつけられた、一瞬呼吸が困難になる、逆さまの司令塔に間近で見下ろされる
普段髪の毛で隠れている右目が見えそうで見えない、天井が遠い


「なら次は折角のラストバトルだったけど、キメラには引っ込んでて貰おうかな?」

「…は?」


訳がわからない、この人は笑いながら何を言っているのだろう。「メルのメンバー内で誰とも因縁が無いのはキメラだけなんだよね」と一人楽しそうに言葉を紡ぐ、何がそんなに面白いのだろう。

胃の中がかき回されるような衝動に駈られる、気持ち悪い。臓器が悲鳴を上げている。

「キメラには裏切り者のゾディアック…イアンの制裁をして貰うことにするよ、丁度いいや、相手も恋人を制裁した当の本人と戦えるなんて本望だろうし」


痛いほど心臓の音が鳴っている

この人は効率を下げて何をしたいのだろう

呼吸を交えながら反論に入るため、口を開いた


「ちょっと、まって下さいよ、だったらそれを私が…」

「キミはナイトクラスの中では中堅レベルだ。…いや、下級レベルかな?まあどっちでもいいけど」

「だったらなおのこと…」

「けれどドロシーと面識があるなら話は別だ、聞くところによれば彼女とは仲が良かったんだろう?
こんな人形を相手にするよりよほど精神的に相手を追い詰める事が出来そうだ、スノウ姫の時のようにね」


司令塔の一言一言が私を抉った。
堪えきれなくなり目を反らすと転倒と共に司令塔の足下に転がっていった「こんな人形」、逆さまのピノキオンの顔と目が合った


「ねえホタル、何考えているの?こっち見てよ」


片手で顔をつかまれ強制的に視線を固定される、別に拘束されている訳でも無いのに体の自由が効かない、怖い


「その目だ、恐怖に駆り立てられる目。君のを見るとゾクゾクするよ、凄く楽しい。いつもボクの事目に入れないようにしてたよね?」

「それは…そんなこと…」


ない、とは言えなかった。だって本当の事だから、嫌いだったから、いつもディアナ様の側で対等に会話しているのを見て腹が立ったのと同時に羨ましかったから。
そんな人の事目に入れたく無かったから。


「ボクはね、君が羨ましかった。ボクの知らないクイーンの事を知っているから。クイーンを視界に入れると側にいるキミも強制的に視界に入っていた。そのせいかいつの間にかキミの事が気になっていたんだ、いい意味でも悪い意味でも」


司令塔の言葉に目が霞む
今はただ、この状況から逃げ出したい、それだけだった。気絶出来ればどんなに楽になれるだろう。


「ねえ、ホタル、ボクの事嫌いだよね?今更好きだなんて言わないよね?キミの事、徹底的に痛め付けてぐちゃぐちゃにしても構わないよね?」


そう耳元で囁かれると胸元辺りに爪を立てられ、ぷつりと皮膚に食い込む音がした。傷が抉られる度に身体は痛みに反応し、服は乱れ涙は溢れる。
司令塔はそんな状況を心から楽しんでいるようで、私の次の反応を今か今かと待ち構えている。

ARMを発動すれば何とかなるかもしれないこの状況に私はされるがままにされ、何も出来ないでいた

ねえ助けてよ

訴えるように視線を送っても首だけのピノキオンは無機質にこっちを見ているだけでピクリとも動かなかった

top

「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -