7/4日は誕生日(らしい)
「ボス、誕生日おめでとう。いえーい!」

ドンドンパフパフ騒がしい砦内。
今日はこの盗賊ギルドルベリアのボスことナナシの誕生日らしい、チェス壊滅後に何食わぬ顔して戻って来た前ボスのガリアンがそう言っていたので間違いない。
そんな訳でルべリアの残党はボスの事が皆大好きなので急遽お祝いをする事になった。
椅子を勧めるスタンリーにボスは「え?何?急に?誕生日って何???」と困惑している。シャンパン開けてるモックもクラッカー鳴らしてはしゃいでいるチャップも実は困惑している。と言うか前ボス以外は皆そうだ。

「今日ってボスが拾われた日とかじゃ無いんですか?」

「いや、そんなの知らへん。誕生日とか初めて聞いた。」

成人男性に名前を付けて拾う男の事だから拾ったその日が誕生日なのだと勝手に解釈したのだけど別にそう言う事でも無いらしい。益々謎だ。
取りあえず開いてしまった物は仕方ないので色とりどりのクラッカーのゴミを頭に乗せてハテナマークを浮かべながら全員で切り分けられたケーキを食べた。急遽用意した市販品ではあったけどまあまあ美味しかった。

「説明しよう。」

よくわからないまま進んだ誕生パーティーもお開きになりそうな頃、価値はあるであろう盗品を袋に大量に詰めて背負った前ボスが、扉も何も無い入り口から現れた。相変わらず目の前が見えているのかどうか怪しい格好をしている。風も吹いていないのに鉢巻が揺れていた。そろそろ素顔を見てみたい物だ。

「早朝の事だ、二日酔いでうなされながら眠っている私のもとに夢の中でお告げがあった。」

この人よくわからないなと思っていた前ボスはやっぱりよくわからない事を言い出した。これが世間的に言う電波って奴だろうか。

「ボス、私前ボスがよくわからない。」

「ホタルちゃん大丈夫、自分もガリアンの事たまにわからんから。」

たまにと言う事は大方は理解出来てると言う事なのだろうか。
似たような恰好すると他人の気持ちがわかるらしいから、それなのかもしれない。
「今度私も目に鉢巻を巻いてみようかな」と考えながら前ボスの話の続きを聞いた。

「夢の中で私の前に降臨した何処か抜けている雷を扱う神はこうおっしゃられた。『今日はジョー…じゃなくて、ゴン…でもなくて、ナナシの誕生日だから祝いなさい』と。」

人の名前を間違えかける神が何処にいるんだ。
「神様の声聞けるなんて流石ガリアン様スゲー!」とスタンリー組が騒ぎはじめた。いや、それ只の夢だよ。
彼らの目には聖書を片手に神の声を効き魂を鎮める神父の姿が映っているのかもしれないが残念ながら私とボスの目には剣を手に電気エイを出す目隠しした変な兄ちゃんの姿しか見えていなかった。ようするにいつもの前ボスだ。

煽てられて調子に乗ったのか前ボスは盗品袋の中からロザリオを取り出すと突然「迷える子羊たちよ…」とか言い出したので本格的に頭を打って来たんじゃないかと心配になった。前ボスってボスと比べると圧倒的に感情表現乏しいから本気なのか冗談なのか大体わからない。
皆酔っているのだろう、ボスの誕生日なのに「ガリアン様万歳!」の声が砦内に響き始めた。

「ボス、私片付け始めますね。」

「自分も手伝うわ。」

温度差について行けなくなったので珍しく素面のボスと片付けを始めた。
箒を持ち出して床を掃いてると塵取りを持ってきたボスが「ドロシーちゃん元気かなぁ」とボヤいていた。
ウォーゲームが終わってからいつもこれだ。
アイスを食べれば「スノウちゃん元気かなぁ」だし猫を見れば「アランのおっさん元気かなぁ」だし野菜を見れば「ジャック元気かなぁ」だ。
この前はその辺の柱を見て「アルちゃん元気かなぁ」と言っていた。
はっきり言って怖い。

「ナナシ、そんなお前にプレゼントだ。」

宗教ごっこを続けている前ボスがロザリオ片手に悩めるボスの元へとやって来た。ご丁寧に本も脇に抱えてパワーアップしている。
そう言えば誕生日だと言い出した張本人はパーティーも出ずに外に出て何をしていたんだろう。

「なんや、壺なら買わんで。」

「何!?マジックロープは嫌いか!?」

「うわ微妙に噛み合ってない。」

「いや違う、ホタルの言う通りだ。そうじゃ無い」

そう言ってごそごそと袋の中を漁ると綺麗に包装されている封筒をいくつか取り出した。使われている封蝋はえーと、あれは確かパヅリカの物、それとクロスガードがよく使う奴、あとレスターヴァの物にカルデアの物…
ま、まさか…

「そう、そのまさかのチームメルからのメッセージカードだ。まあギンタのは無いがな。」

どうやってカルデアに接触したのかとかよくレスターヴァに行けたなとか突っ込み所は山ほどあるがそれはこの際気にしないでおこう。
封筒を前ボスから受け取るとボスは中身を取り出して1枚1枚読み始めた。
筆跡が本当に合っているのかどうかわからないがボスにはわかるのだろう。
久々のやり取りに涙ぐんで最後は感謝を述べながら前ボスと熱い抱擁を交わしていた。

良かったね、ボス。誕生日おめでとう。

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