兄さんの軌跡
ミツキの兄はボクがトモダチだと思っていた冬村ヒナタでクイーンが大戦の余興として呼んだ異世界の人間だった。
クロスガード側のダンナ、チェス側のヒナタ、対立する異世界の人間、そんな構想をクイーンは思い描いていたらしい。

ヒナタは元の世界に不満を持ってこの世界に来た人間だった。呼び出した当初、全身打撲と数ヵ所の骨折、内蔵破裂を起こしていてホーリーARMでギリギリ死の淵から蘇ったヒナタは高所から落下して目が覚めたらこの世界に来ていたのだと言っていた。

ヒナタは戦闘に関して何もかもがダメだった。ARMとのシンクロもまともに出来ない、身体能力もポーン兵以下。修練の門に放り込んだ結果取得したのは最低限のサバイバル能力だけ、その癖まともに使うことも出来ない魔力はバカみたいに上がるからボクは「でも意味は無いんだろう?宝の持ち腐れだ」と思いながら次第に彼に失望していった。

最終的にクイーンが何もかもがダメなヒナタを処分する直前に思い立った考えがARM彫金でそれが効を為してヒナタはクイーンと共に行動する事が増えたのだけどボクはそれが面白くなかった。

ヒナタをトモダチだと思えるようになった切っ掛けは憂さ晴らしに訊ねたヒナタの歪んだ身の上話を聞いた上でようやく彼もチェスの一員として相応しいと認める事が出来たからだった。

クイーンがヒナタの事を気に入っていたのはいずれ支配するつもりでいる異世界に不満を持つヒナタがいい手駒として使えそうだからと言うだけで情なんて欠片も持っていないことをボクは後に気づいて完全にヒナタへの嫌悪感は消えた。


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兄さんはどういう訳かARM彫金が得意だったらしい。
異世界の人間がどうやってそんな技術を身に付けたのか、当時は兄さんの記憶も何故か曖昧で謎に包まれていたそうです。
クイーンがカルデア出身の魔女だと言う事をこの間知った時、謎は全て解けたとじっちゃんの孫のような事をおっさんが言いました。

記憶が捏造されていたのは恐らく大戦の全ての糸を引いていたのが彼女で、まだ良心的なレスターヴァ王妃を演じる必要があったクイーンが何かしらの切っ掛けで実はチェスの2だなんて正体をクロスガード側に知られる可能性を少しでも排除したかったからでしょう。

ガリアンが記憶操作のARMを持っていた以上、カルデア出身のクイーンが似た物を持っている事を考えるのは容易ですしね。

寝返った当時、チェス側のスパイかと疑われていた兄さんは常に上位クロスガード(おっさんとかガイラさん)の監視下でARM彫金を行い、同時にチェスで作っていたARMの性能を暴露したと言う。
私が相手にしたチェスの兵隊の中にも兄さんの彫金したARMを使っていたチェスがいたらしい。

兄さんが寝返る前からクロスガード側はチェスの兵隊相手に優勢ではあったようですが兄さんの働きが戦争の勝利に貢献した事も間違いではないでしょうね。

そして前回の大戦が終わると誰に何を言わずに兄さんは行方を眩ませた。

兄さんがクロスガード側に寝返った理由は実はおっさんにもよくわかっていないらしい。
同じ異世界人のダンナさんにだけは伝えてあったらしいですが彼ももう土の下。
結局私は全てを知ったわけではありませんでした。

おっさんは言葉を紡ぐ。

「ひょっとしたらおめえを異世界から呼んだのもヒナタかもしれねえな。
オレ様はARM彫金は専門外だから何とも言えねぇがもし門番ピエロが彫金出来るなら肉親をピンポイントで召喚する事も可能かもしれねぇ。
まぁ世界中でも数える程しか見つかって無ぇ貴重なARMだから彫金出来るかどうかも憶測だがな。」

生きてるかどうかも不明ですしね。

けれど前にドロシーさんが私の持つARMを見て言っていました。

「ふむふむ、見たこと無いARMだねぇ、キミ、これどこで手に入れたの?」

カルデア出身のドロシーさんが知らないARM。もしかしたら最初に着けていたARMも兄さんが作った物かもしれないと考える。

私を呼んだのが本当に兄さんだとしたら

一体どんな反応をするのが正しいのだろう
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