昨日ぶりです
光の刺激で目を開くと知らない場所にいました。
……前にもこんな事ありましたね。

鈍く痛む頭を擦りつつ、固い地面から身体を起こし辺りを見渡すと樹木に囲まれている事に気づく。どうやらここは森のようです。
さわやかですねー。と背筋を伸ばし、勢いのまま後方へと回転し、立ち上がる。

ぐにゃり

何か踏んづけたようでした。
踏まれた「何か」は足の裏から神経伝達で脳に不快感を伝えます。
足元を確認します。踏んだものはやはり肉でした。

一つだけなら小動物でも踏んだのかなと考えるのですが、肉は大量にありました。
バラバラになった人間の死体らしき物のでした、私はその破片の1つを踏んだようです。
各肉片からは行き場を失い、はみ出した内蔵がなんともスプラッタな事になっています。
少し気になるのは不自然な程に切り口が綺麗なんですよね、まるで窓ガラスを落として割ったかのような。
まあ、ここは今じゃチェスの本拠地レスターヴァですしバラバラ死体が放置されてようが普通…

……あれ?おかしいですね?私、柔らかい絨毯の敷き詰められたレスターヴァ城にいた筈なんですが…
いやいやそんな筈はと目をこすり、再び開眼。相も変わらず景色は変化しません。
まさかの夢落ち?
それにしたってレギンレイヴ付近でこの景色に見覚えなんて

無い、と思った所で遠くで爆発音がしました。それによって脳が刺激され、最後に起こった出来事が頭を通り抜けます。フラッシュバックって奴です。

ファントムが、用事があるので5thバトルの日程が1日ずれると言っていたんですよ。

そうですね、記憶とその後に起こったであろう出来事が正しければ、ここはカルデアと言う場所らしいです。


43


ウォーゲーム中とは言え、メルヘヴン大戦中の真っ只中で起こる爆発なんて十中八九チェスの兵隊が原因でしょう。こじつけ?いいのです。

一応、世界を救う7人だか8人の中に入っているので「私は何も知りません見てません」面なんぞする事は出来ません。

爆発音の方向…森から伸びる目立つ建物が見えます、恐らくARMでもあるのでしょう、わかりやすいですね。
建物を目印に足を早めるとレスターヴァ城で起こった出来事が鮮明に甦りました。





腰を抜かした私は夕日をバックに再び暗い城の中へとファントムに引きずられ最初の部屋に戻って来ました。するとまあ、なんでしょう。先程まではいなかった顔色の悪い人がいらっしゃるじゃないですか。

「ペタじゃないか、どうしたんだい?今日は溜まっている仕事を片付けるから部屋に籠るって言ってなかったっけ?」

「先程からクイーンがお呼びでいらっしゃるのですが。」

「あ、通信用ARM切ってたんだっけ。じゃあ悪いけどミツキを見ててよ。」

ボクは謝罪も兼ねてクイーンの所に行ってくるから、とファントムは再び扉を潜り「クイーンの所 」に向かいました。
隣で顔色悪い人ことペタが溜め息をついていました、苦労なさっているんですね。

それはともかくとして、そうです、クイーン。少なくとも私は目にした事のないチェスの兵隊No.2のいる敵の本拠地にいたんです。
……キング?さあ…いたんじゃないでしょうか?

敵の情報を少しでも盗む事は戦況を良くする、と私は考えました。当然ですね。
今のファントムは私を殺す気なんてさらさら無さそうなので、隙を見て一度そのクイーンの顔を拝もうと部屋からの脱出を図ったんです。あと修行でいないらしい下級兵がもしいたらアンダータをサクッと頂こうと思いまして。レギンレイヴに繋がらなくてもこの天空の城レスターヴァから出ればどうにかなると考えたので。
さて、行動に移しますかと横目でペタを一見し、私を見ていないことを確認して扉へ音を立てず歩を進め取っ手に手をかけた時です。


「貴様、何処へ行くつもりだ?私の仕事をこれ以上増やす気か?」

はい、ペタにガッと音がしそうな勢いで肩を捕まれました。ミシミシと音が鳴っていた気がします。どこにそんな力が。ゆっくりと振り替えると視線が突き刺さりました。心臓すくみました。何ですかあの人怖い。

それでしばらくは正座で顔を項垂れてました、だってあのペタが無表情でこっち見てくるんですよ?自然と説教されポーズに移項しなければと思うじゃないですか。

蛇に睨まれた蛙の気持ちってこんなんなんですね、「トムさん」自作自演騒動の時は必死だったのと死なない根拠と味方が近隣にいたのもあって「最悪の事態=ミツキ死す」は免れると思っていましたが今回は無理です、正直おっかなくて動けません。いや、動く気になれません。この人、威圧感ヤバイです。

前髪の隙間から顔を伺うと「…なんだ?」と低く不機嫌そうな声色を発せられました。

「すみませんなんでもありません。」

とりあえず謝りました。

えーと、その後どうしたんでしたっけ。
ああ、そうそう。早くファントム帰って来いとかこの際、雰囲気クラッシャーならハロウィンでもロランでもこの際ラプンツェルでも構わないと考えたんでしたっけ。

それで理不尽な説教中にやるような「心ここにあらず適当に頷いて人の話を聞いてるふり」作戦で現実逃避をしつつペタの事を「フハハハハ!」とか笑う位にはテンションも高いんですよね?ファントムの悪ノリに付き合う位にはノリもいいんですよね?二重人格?と大変失礼な事を考えていたら普段やらない正座のおかげで足が痺れてきて「あーもう駄目だ」と思った所にファントムが帰ってきたのでした。

「何やってるの?」

「正座してました。」

「見張ってました。」

「うん、見ればわかるよ?」

呆れられました、一旦切ります。





「ウォーゲームまだありますしいい加減帰りたいのですが。」

仕切り直しで発した第一声がこれでした。私は4thバトルで普通ならトラウマになってゲーム参加が不可能になるレベルにはけちょんけちょんにやられました。
ですが死にかけたのは11年だか12年ぶりの二度目なので三度目まではまあなんとかなるでしょう。多分。我ながら甘い考えですね。
これは後付けですが、ここに来てからかなり初期の方でバッボに止められたのにもかかわらず戦いに首を突っ込んだ以上、最悪私は平穏が訪れるまではやりますよ。

まあ、どうせ兄さんがどうたらこうたらでこの「人」…あー、人は嫌いなんでしたっけ?この「生きる屍」は拒否するのでしょうけど。

「うん、構わないよ。」

あれ?予想とは裏腹に受諾されました、どんな心境の変化なのでしょう?

「事情が変わったんだ。」

短時間での事情の変化ですか。
彼の性格は気まぐれで自分勝手で電波で残虐だと判断していたのであまり気には止めませんが。
おそらく階級が上の「クイーン」との会話で私を返した方が得策だと言う結果になったのでしょうね、そういう事にしておきましょう。やったー。

「だから明日、ミツキはボクとカルデアに向かうよ。」

「はい?カルデア?」

予想だにしていない方向に話が進み、ついイントネーションが上向きになるような間抜けな声を上げてしまいます。カルデアってどこですか?湖ですか?あっ、レギンレイヴの間違いですよね?

とか、考えていたらファントムがおもむろに取り出した『スリーピーリング』なるARMで意識が途絶えたんです。

今までのTHE気絶集に比べれば遥かにマトモな方法だったので特に恨みはしません。

と、言う事はですよ。今日はファントムの言う明日って事です。





はい、回想終わりと同時に到着しました謎の建物付近。持久力は上がってるので全力疾走しても息切れ一つしてませんよ私。凄い。
付近なのは少し先に大量の瓦礫と下級兵(魔力からしてルーク級)であろうチェスの兵隊が大勢いらっしゃったからです。

物陰から様子を伺うと、ルーク兵と瓦礫に囲まれ司令塔が突っ立って誰かを見下ろして何かぶつぶつと呟いています。「満身創痍創意の中でボクに傷を付けた」とかなんとか、ファントム相手にそこまで戦える人がいたなんてカルデア凄い。
世界の命運がかかっているんですからウォーゲームに出てくださいよ。でもここからじゃ瓦礫とルーク兵が邪魔して相手がよく見えませんね。

散らばる瓦礫の破片を踏んづけ目的の中心へと近付きます、それに従いルーク兵の視線が突き刺さり、ざわ…ざわ…と言わんばかりに辺りがざわつき始めます、無視。

良く知ったARMが私に気付き、名前を呼びました。
そう、中心で白目を剥いて倒れていたのはギンタ君だったのです、昨日ぶりですね。バッボも。何か言いたげですが後で説明するのでもう少しお待ちください。

「やあ、ミツキ。」

「やあ、じゃないです。これはどういう事ですか?」

「ごめんね、いつの間にか落としていたみたいだ。途中で逃げようとする弱虫なルーク兵を見付けて制裁した時かな?」

ああ、あれファントムがやったんですか。「お陰様で非常に不快な気分になりました。」と答えると「キミがかい?」と返答しやがりました、失敬な。

「まあ、そんな事はどうでもいいので質問に答えて下さい。」

「ARM目当てにカルデアに来たら偶然ギンタと出会った、それで戦った。」

「ARM目当ては本当だとしましょう、偶然?嘘ですね。貴方は何らかの方法でギンタ君がこの国にいる事を知っていたのでしょう?でなければ私をわざわざ抱えてこの国に来る必要性なんてないのですから。」

「キミを連れてきたのには他の理由もあるけど…まあ、いいや。ARMももういい。帰るよ。」

東の塔に向かった連中にもそう伝えておいて。と、撤収の命を下っ派共に伝えて、再びこっちに向き直ります。

「ああ、そうそうミツキ。ボクはキミがチェスに入らなかったことに心底安堵しているんだ。」

「理解できませんね。二度も誘っておいて吐く言葉ですか?それ。」

「再確認はするに越した事は無いよ?繰り返しの勧誘で意思が揺らぐ人間なんて沢山いる。そうだね、ミツキがヒナタみたいに簡単に仲間を裏切るような奴だったら、ボクは失望してあの場でキミを手に掛けていたよ。」

うわ…変に深読みせずにチェスに入りますとか言わないで正解でしたね、危うく本当に地獄に向かう所でした。少しだけ動揺したので覚られないように素っ気なく返事をしておきました。
ファントムは満足したのかいつものように人の良さそうな顔で笑い、直ぐ様目付きをあの3rdバトル終了後に見せた冷たい人殺しの物へと変化させました。

「ギンタ。次、戦う時は…殺すからね。ミツキも。」

もう話は終わったから。
この言葉を最後に、戦果の残響と瓦礫を残してファントムと他のチェスは姿を消した。

少ししてドロシーさんのギンタ君を呼ぶ声が遠くから聞こえた。


補足
ドロシー勝利→42話→ファントム呼び出し→夜、レギンレイヴ城にてポズン延期宣言→カルデア
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