不思議の国の髭面紳士
「楽な勝負だったぞよ。」

と、スノウ姫との戦いで戻って来て早々Mr.フックが口を開く。

「しかし……残りの3人は注意した方がよいぞよ。ギンタ、ミツキ、それにアルヴィスというたか。楽には勝てぬはず!!」

「そ、そーですねどうしましょう…ヘーゼルさん、カノッチさん。」

「誰が先に出ます?」と、腕を組み難しい顔で岩に背を預けるヘーゼルと呼ばれる男と、その岩の上に座る帽子を被り全体的に白いカノッチと呼ばれる男にロランは視線をそれぞれ移し、呼び掛ける。
その声にヘーゼルはロランに視線を動かし、すぐに戻した。

反対にカノッチの反応はいくら待っても何も返って来なかったので、ロランが困惑したように疑問符を付けつつ名前を口に出すと、上半身を上下に揺らし、そのまま高台から落下。衝撃で「ほぐわ!!?」と叫んだ。その予想外の行動に一同は呆気に取られる。

「アレ。アリババは?」

「一戦目で死んだじゃないっ……て……あんた……もしかして、今まで寝てたのーっ!!?」

「まあ真打ちは後で登場ってこった。残ってるのはカノッチと誰だい?」

「ぼ……ボクとヘーゼルさんです……」

ロランの返答に、「そうかい。じゃあカノッチ出てみよう。」と、カノッチは帽子を被り直しつつ前に出た。

「向こうで残ってるのは誰だい?」


26


スノウ姫が高熱の衰弱により敗戦し、2vs1となりました、こちら側が有利な状態で後半戦に突入します。

四戦目の相手は目が星で真っ白でどう見ても人間に見えない人が出てきました。Mr.フックがビショップクラスだった以上、今更ルーククラスが出てくるとも思えませんので彼もおそらくビショップクラスでしょう。

「次のチェスはあのへんな男か……ナイトの男はおそらく最後だな。行って来いギンタ!!」

「犬かオレは!!」

キレ筋を立てながら、「命令されんの何かムカツク」とギンタ君はブーたれる。
面白かったので「ギンタ君、お手。」と言いながら掌を差し出してみた。

「ワ…やんねーよ!!」

勢いのままノリ突っ込みをされました。可愛いですね。
それを見てアルヴィス君が咳払いをする。
すみません、ごめんなさい。

「忘れるな。お前はキャプテンだろう?戦闘能力的にまだ未熟なお前はナイトと戦うには危険すぎる!お前はどんな事があっても勝ち続けなくてはいけない。キャプテンの負けはそのチームの負けになるからな。」

「そう言う訳で勝機の可能性が少しでもあり、かつナイト戦で最悪の事態になってもいいよう、異世界人補正があり、ギンタ君よりは自由に動ける私と戦闘経験豊富なアルヴィス君のどちらかは最後まで残ってないといけません。」

どこぞの誰かが最初にルーククラスのケンカを買って戦うからこんな事になるんです。
「テメェじゃ役不足だ」とかなんとか言って追い返せばよかったんです。
と、口には出さずおっさんに視線を移すと、「なんだぁてめェ…」と言う顔で睨まれたので反らします、やっぱあの人苦手です。

「頼むぞキャプテン!」

「頼りにしてるっスよキャプテン!!」

と、アルヴィス君とジャック君がギンタ君を持ち上げ、それに後押しをするよう

「キャプテン、頼みます。」

と声をかけると、気を良くしたのか、「行くぜぇバッボ!!!」と簡単に4回戦に向かってくれました。私はそんな単純で扱いやすいギンタ君が好きですよ。





「へえ。ガロンを倒したあんたかい?悪くないねェ。」

カノッチが口を開き、直後にポズンが試合開始の合図を入れる。それとほぼ同時に、カノッチは指輪のついた人差し指をギンタ君に差し向けた。

「ドーン。」

ギンタ君は何かされたかと考えながら身体中を確認しています。

「???今……何されたんだ?」

「お前さんはコレでカノッチに呪われた。カワイソウなこった!!」

カノッチが帽子を外すと、その中から頭に立てられたロウソクが出現、勿論燃えています。頭、蝋も垂れてますし熱くなかったのでしょうか?

と、呑気な事を考えているとカノッチはとんでもないことを口にしました。

「このロウソクが燃え尽きた時にはさ、ロウソクになったお前さんも消えちまうってんだ!!」

「なっ……」

「何ーっ!!?」と、ギンタ君に続くようジャック君とスノウ姫が叫びました。相手の使用したARMはダークネスARM『ボディキャンドル』と言うもので、アルヴィス君が珍しく焦りながらギンタ君にリングの破壊を命じます。

も、相手もそう簡単に破壊させる気は無いようで口を開きリングを飲み込みました。それはもう美味しそうに。準備は整ったと言いたげに持ち歩いていた杖に火を着けました。

「タネもしかけも、消えちまったってこった!」

「ハラぶんなぐって吐かせてやる!!!バッボバージョン@!!!」

バッボを変形させ、ギンタ君はカノッチと交戦に入ります。早さ、威力を見るとギンタ君が有利なようで、カノッチはそれに焦り、受け流すのに精一杯という感じでした。
直ぐにギンタ君の一発が腹部に入り、その衝撃を利用しカノッチは一歩後ろに下がった。

「ゲホ…本当に吐きそうになっちまって笑えねェ!作戦変更だね。」

と、頭のキャンドルに炎を近づけ溶かしはじめると、ギンタ君もドロリと同じように溶けはじめました。

「1秒でも早いトコ、燃え尽きてもらうのも悪くねェ!!」

あまり状況は宜しくないですね。
カノッチが指輪を吐き出し、それを破壊出来れば何も問題は無いのですが逃げ回られれば時間が無駄になるだけですし、ロウソクが破壊されたらどうなるかを考えると迂闊にバブルランチャーもガーゴイルも使えません。流石におっさんも顔をしかめます。

「マズイな…よりによってダークネス使いとは……」

「ダークネスはクセのあるARMだからタチが悪い。2NDバトルでナナシが苦戦を強いられた様に、真っ向からの防御が数限られる!!」

そう言えば出会ったときにアルヴィス君はダークネスARMを使用していましたね、ジャック君を鳥にした奴と、多分スタンリーの動きを止めた奴。その本人からの説明は妙に説得力があります。あとナナシさんは自業自得です。

「あの技を破る方法は……あるんスか?」

「2つしかないよ。ARM自体を破壊するか…ホーリーARM!!」

「そのホーリーARMも、ボディキャンドルの呪いがどれ程強力かは知りませんが、おっさんが昨日まで犬だった事を考えると、強力な呪いを解く物を今のメンバーで持っている方はいないでしょう。」

「ちっ……一戦目のタコをギンタとやらせるんだったぜ……!!」

今更後悔されても、と思いますがそれどころではありません。

ボディキャンドルの呪いによりギンタ君からポタポタと滴が流れ落ち、足下には汚染水のような虹色の水溜まりが出来ています。

「カノッチっていったな?お前、なんでチェスなんかやってるんだ?お前も、人を殺す事が楽しいのか?」

「……人殺しにはキョーミねェ!ただカノッチって男は、スリルと刺激が欲しいのさ。ウォーゲームなんて刺激的だ。悪くねェだろ?ギリギリの命をかけた『ゲーム』にキョーミあるのさ。カノッチが負けて死んでも悪くねェ!お前さんに勝ってスッキリするのも悪くねェってこった。」

殺し自身には興味の無いギャンブラー気質の、そんなカノッチの意外な本性に、ギンタ君はニヤリと顔を緩ませる。

「ただのバトルバカかお前?単なる悪者じゃねェな?」

「そういうイミじゃお前さん側について、チェスの連中と戦ってたのも悪くねェ話だったなあ。」

カノッチとの話に決着がついたようなので、攻撃を仕掛ける為かギンタ君はバッボに声をかけます。何をする気かはわかりませんが、彼が目を瞑ると、魔力の波長が変化します。ガーゴイル発動の時とはまた違う、どこか涼しい魔力を感じました。あ、そう言えば2ndバトル終了後に見た4つめのマジックストーンの存在を忘れてました、それでしょうか?

バージョンC、と口にすると同時にギンタ君の腕と一体化していたバッボが変化し、それは出てきました

「聖なる守護者アリス!!!」

目のやり場に困るほど所々破れた露出の激しいゴスロリ姿、泣き黒子、黒髪のロングヘア―、死んだ魚のような目、天使の輪、正直揺らすために付いてると思う程大きすぎる乳。

……こんな時に言うのもなんですが、趣味丸出しってレベルじゃありません。「聖なる守護者」と言う言葉の羅列のある意味間反対の位置にいる容姿です。思春期真っ盛りなギンタ君を否定する気はありませんが、正直淑女ですら無い痴女な姿にされたバッボには同情します。

バッ…今はアリスでしたね、が両手をギンタ君に翳すと、光の粒子が降りかかり、溶けて滴っていた雫が逆流し、もとに戻ります。呪いが解除されるのが目に見えてわかりました。

「と、溶けるのが治っていくよ…っ。アレがバッボさんの4つ目の能力!!」

「ホーリーの力をもつガーディアン!!この一戦を前に、あの力を創造してたのはラッキーだったな!!」

呪いが完全に解けたのを見計らい、ギンタ君はアリスをバッボに戻し、これで小細工無しで殴り合いが出来ることが嬉しいのか笑いながら口を開いた。

「よし!これでまた1から戦おうぜ!!とことん相手してやるぞカノッチ!!こっからは、ただのケンカだ!!」

「……ダメだねェ…」

直後、徐々にカノッチの身体が溶け始めました。

「失敗しちまったなァ……お前さんみてェなおバカさん相手に、ボディキャンドルなんか使わなきゃよかった……最初っからただのケンカ……してればよかったなァ………」

ギンタ君の時と違い、短時間で原型が留めなくなるほどカノッチの身体が融解する。

「カノッチ!!?」

「代償だ。ダークネスARMは術者に何かしらの反作用をもたらす。ボディキャンドルの代償、『失敗は術者を逆に溶かす』」

それを聞き、ギンタ君がもう一度アリスを発動させようとしますが、無慈悲にもう間に合わないとバッボが口を開きます。

「…お前さん!チェスはナイト級からが本当の戦いだぜ!本当の敵は、これから出てくるってこった。」

カノッチは敵であるギンタ君に声援を贈り、最後にはARMも服も杖も帽子も彼自身も完全に溶けて、この世から姿を消した。

負けんなよ…
敵にこういう言葉を贈って消えてくのも悪くねェ………

最後にこの言葉を残して。

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