こねた | ナノ


甘いのはお好きですか?(青黄)




「ただいまー」

がちゃ、という音と共に聞こえてくる声は、確かに同居しているあいつのものだ。普段のあいつを知っている者ならば分かるだろうが、通常の声音より数段トーンの低いただいまは、最近になって言うようになった言葉だった。

最初の方は帰ってきても何も言わず、さも当然のようにそのまま風呂に直行していたから、流石にそれはないと思って彼に言った。ただいま、くらい言えるだろうと。返ってきた答えは、その必要性を問い質すもので。
そもそも帰ってきた事くらい分かるだろうに、何でわざわざ知らせる必要があるんスか、とさも当たり前のように尋ねられ、言葉が詰まったのをよく覚えている。しかしそれに対してどう返答すべきか迷ったのは一瞬の時間だけで、オレは間髪いれずに「寂しいだろ」とだけ返した。あいつは目を丸くした後、ぶはっと笑い出し暫くまともにオレの顔を見なかった。口元を押え方を震わせる同居人に「ただいまくらい言ってやるから」とだけ告げると、今まで笑っていた顔がきょと、と目を丸くしたそれに変わり、その後微笑を浮かべて肯定を示した。

それからだ。黄瀬がきちんとただいま、と言うようになったのは。

「おかえり」
「…やっぱこれ、なんか恥ずかしくないっスか?」
「は?なんで」
「や、なんか……むず痒い、っていうか…」

荷物を置き、薄手のコートを脱ぎながら、黄瀬は目を合わそうともせずにそう言った。どうやら子供のころにそのような習慣がなかったらしい。当たり前だと思っていたそれが、黄瀬にとっては当たり前ではなかった。そのギャップに戸惑いはしたが、嫌だと思った事は無かった。

「嫌ならやめるけど」
「別に嫌じゃないっスけど、なんかさあ……」
「じゃあ文句言うな」
「…はーい」

どさ、とオレの隣に黄瀬が座った事で、ソファーが僅かに唸りをあげた。もごもごとはっきりしない答えを返す黄瀬にぴしゃりとそう返せば、やれやれと言った風に溜め息交じりの肯定を返される。

「明日は?」
「オレは珍しく休みっスよ。青峰っちは?」
「午前バイト。午後はなんもねぇよ」
「珍しー、オレらの予定が合うなんてさ」

珍しく休みだという黄瀬は、楽しそうに笑った。久しく見ていなかった子供のような笑みに、思わず黄色の眩しい頭に手を伸ばした。久し振りの感触を味わって、がしがしと掻き混ぜる。

「わ、ちょ、何すんスか」
「明日、どっか行くか」
「え?」

目を丸くして此方を見た黄瀬にどっか、楽しいとこ、と曖昧な答えを返すと、黄瀬は照れたように笑いながら、こてんとオレの方に寄りかかってくる。

「外、めんどいから家がいい」

もごもごとした発音で、それでいてはっきりとした意思表示をされれば、断る理由も大してないから、了承の返事を返す。最近時間が無かった分、思い切り甘やかしてあげなければ。いつのまにか目を閉じてリラックスしている黄瀬の頭を、もう一度撫でた。



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すっごい中途半端なのでこれも長いんですが小ネタに。
最近まともな更新できてなくて申し訳ないですヒィ

comment:(0)
2013/04/08 21:00

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