こねた | ナノ


転がった言葉(青黄)






バタン、と扉が閉まる音がした。それから自分の持っていたタオルを適当にそこらへんに投げて、自分のロッカーを開ける。今にも雪崩れてきそうな雑誌の数々は見ないことにして、制服を取り出す。上のシャツを脱ぎながら、静かに考えた。

オレは多分、黄瀬のことが好きなんだと思う。
それも実は結構前から。さつきから「モデルの黄瀬くん。大ちゃん知らないの!?すっごい有名だよー」って聞いてて名前くらいは知ってたけど、春に黄瀬にボールをぶつけてから、あいつはこのバスケ部に入部した。それは驚いたけど、入部理由がオレのバスケに憧れたからだと知って、納得。まあオレに勝てるとは思ってねえけど、負けん気と向上心は認めてやろうと思う。

そっから一緒にバスケをして、分かったことがあった。
綺麗な顔してて、見ただけで何でもこなせてしまうと言っていたあいつ。どんな嫌味な性格してやがんのかと思ってたけど、意外にも必死に練習している姿を見て驚いた。一生懸命で、真っ直ぐで。いつもオレに1on1を挑んでくるあいつの目は、誰よりも輝いてる気がする。

そんな黄瀬と毎日話して1on1をするうちに、いつしか惹かれていって。気付けば深いところまで侵食していたこの気持ちと、向き合う覚悟は出来た。


言ってしまえばオレ達は男同士で、同性愛なんて世間的にもよろしくないって事は分かってる。しかもお相手は広い範囲に顔が知れているモデルで、何かあればすぐに影響が出てしまうっていうのも痛いほど理解してる。

だから何だってんだ。バレてまずい事になるのならバレなけりゃ良い話だし、第一オレがこの気持ちをそのままにして黄瀬と接する事が出来るか。いや、無理。

単純な頭でそう考えて、カーディガンのボタンを留める。軽いバッグを手に引っ掛けて、部室を出た。



「あー、青峰っち!?ちょっと一人だけ帰るとかずるいっスよ、ちゃんと後片付け…」
「黄瀬」

モップをかけていた黄瀬に近付いて、言葉を遮るように名前を呼んだ。何時に無く真面目な声音になってしまう。けどまあ今から言う事はいたって真面目な事だし、改まって言う事でもあると思う。だから、目を丸くして黙り込んだ黄瀬を真っ直ぐに見詰めて、気持ちをそのまま吐き出した。

「好きだ」
「…………へ、…は?」

意味を成さない間抜けた声と間抜けた面を晒している黄瀬は未だ状況が飲み込めていない様子で、目を泳がせてはオレに合わせ、3秒ほど目が合ったと思えばまた逸らし、を繰り返していた。

「そんだけ。じゃな」
「ちょ、そんだけって…!意味わかんねえんスけど、ちょっと!」

黄瀬の答えも聞かず、まあ今度聞けば良いかと思って、踵を返してそのまま外に出た。頬を掠める冷たい空気が気持ちいい。明日からどんな顔をして黄瀬と話せば良いのか、少し思いあぐねたが、まあ1on1でもすればいいかと考えて、体育館を後にした。


残された黄瀬が顔を僅かに赤く染め、ばーか、と呟いたのは、誰も聞いていない。



転がった言葉

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中途半端なので小ネタに。
もう少し長ければ普通にshortでよかったんですけどなむなむ

comment:(0)
2013/03/14 22:49

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