こねた | ナノ


それはほろ苦い何かで(青黄)




「おい、黄瀬」
「ん?」
「手ぇ出せ」
「手?」

目を丸くし青峰を見詰める黄瀬だったが、早くしろと急かしてくる青峰に疑問符を浮かべながら手の平を差し出した。其処にぽん、と軽い重みが乗る。

「やる」
「…え、と」

黄瀬の手の平に置かれたのは、小さな四角形のチョコレート。10円で売られているスタンダードな味のそれは、誰もが食べた事があるだろうそれだった。困惑した黄瀬は眉根を下げ笑うも、その笑い方を見た青峰はむっと眉根を寄せながら言った。

「いらねぇなら返せ。どーせ死ぬほど貰ってんだろうしな」
「や、そういうわけじゃないんスけど。オレ貰えるもんは貰っとく方だし」
「そーかよ。苦情は受け付けねぇぞ」
「…ふ、はっ…く、っ…」

ふい、とそっぽを向いてしまった青峰の耳が僅かに赤らんでいるのを見て、思わず黄瀬は笑い出す。チョコを持っていない方の手の甲で口元を隠し、あまり笑いすぎては相手を怒らせてしまうから、と喉奥でくつくつとした笑いを零す。

「…あーもーうっぜえ!帰る!」
「ご、ごめんって!あ、青峰っち!」
「んだよ!」
「…ありがと、チョコ」

帰る、と踵を返した青峰が最後にちらりと黄瀬の方を見ると、小さな小さなチョコレートを手の平に乗せ、静かに笑う黄瀬が目に入った。その笑い方が少しだけ気になった、なんて、今この状況では言えなかったけれど。




「大ちゃん!もう、こんな所で寝てる…」

キィ、と音を立てて重いドアを開けると、まず目に飛び込んでくる空の水色に目を細める。それからコンクリートに寝転がっている紺色の頭を見つけて、溜め息が零れた。

「また部活サボろうとしてるんでしょ。今日は逃がさないか、」
「さつき。一個聞きてえんだけど」

ちょっと、まだ話してるじゃない。そう言う暇も無く、目の前の暴君は先を話し始める。ああ、もう。なんて思いながらも、普段より少しだけ真面目な空気を匂わせている相手に、少しだけ違和感。

「…おまえ、バレンタインにチョコ貰ったろ」
「いきなり何!?」
「いーから。貰ったんだろ」
「も、貰ったけど…どうしたの?」

やっぱりおかしい。さっきまで少ししか感じていなかった違和感が、急激に膨れ上がる。

「…これ」
「え?」
「これ、さ。黄瀬の奴に貰ったんだけど。お返しっつって」
「へ、きーちゃんに…ってえぇ!?」

背中を向けていた青峰くんが体を起こして、ポケットから小さな水色の袋を取り出した。黄瀬の奴に貰った、という事は、青峰くんがバレンタインにチョコをあげてたっていう事で、え、青峰くんがきーちゃんにチョコあげるなんてどういう事なの?どうしたの?
思わず声が裏返ってしまったけれど、姿勢を正して青峰くんを真っ直ぐ見る。

「…えーと、それってつまり大ちゃんがバレンタインにチョコあげたって事、だよね…?」
「まあ。10円チョコだけど」

ああ、成程。今までの驚きが急速に収まっていくのを感じていた。あの青峰くんがチョコをあげただなんて聞いた時は頭が真っ白になったけれど、まあ10円チョコなら納得がいく。

「それで?それ、中身は?」
「クッキー」
「!」

平然と飛び出た答えに、本日何度目かの思考停止。ホワイトデーのお返しにクッキーを貰った、という事は。彼らの間に何かが起こっている事は明確だった。けれどそれを口に出して言って良いものなのか、それとも自分が彼らの間に入ってくっつけたほうが良いのか。ぐるぐると渦巻く気持ちをどう口にしようか思っていると、大ちゃんがじっと此方を見詰めているのに気が付いた。

「やっぱな」
「え、え…?」
「…あんま良くねえんだろ、これ」

これ、と言いながら持ち上げられたその小さく綺麗な色をした袋に、何も言えず目を逸らしてしまった。意味を、彼は知っているのだろうか。ホワイトデーのお返しに貰う、クッキーの本当の意味を。

「…大ちゃん」
「ほんと、めんどくせぇよな。あいつ」

はー、と珍しく溜め息を吐く幼馴染になんと声をかけたら良いのか分からなくて、ただただ黙り込んでしまう。彼はクッキーが入っているらしい袋をまたポケットに戻し、立ち上がればうーっと背伸びをした。

「…逃げんなら、追いかけてやるよ」

彼の表情は、試合前のようにぎらぎらとした静かな炎を湛えていて、だけどとても柔らかい顔をしていた。



クッキー:お友達で居てください。


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書こうと思ってたけど飽きちゃって途中で終わってしまったやつ。
所謂ボツものですね。はいすみませんでした飽き性治したい…!

comment:(0)
2013/02/20 21:12

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