こねた | ナノ


奪い返すまでだ(その他/笠黄前提青→黄)



黄瀬が見つけた新しい居場所は、とても暖かくて、今まで彼が求めていたものにとても近い場所だった。


IHが終わって数週間。
桐皇戦の後笠松が黄瀬に伝えた事は、「まだオレ達は終わっちゃいねえ、気抜くな」という事と、「黄瀬、好きだ」という紛れも無い告白の言葉だった。

それを拒む理由なんて黄瀬には無い。笠松は自分にとってとても大事な人だから。
何よりあの試合で自分は負けた。これまでずっと思いを馳せていた青峰大輝に、自分は負けたのだ。だから、もう終わりにした。憧れるのも、この気持ちも。全部、忘れる事にした。


結果、笠松と黄瀬は付き合う事になったのだ。

「で、この間其処行ったらなんか無くなってたらしくて!ほんと笑えるっスよね、折角調べたってのに」
「笑えるっつーか、可哀想だろその人。なんか不憫だな」

今日は練習で東京に来ており、帰る際にバーガー店でご飯でもという流れになった二人。此処で談笑をし始めて早30分くらいだろうか。中学時代に少しだけ似た明るい雰囲気に、黄瀬の心は癒されていった。

「でしょ?それでセンパイ、その人が――」
「……黄瀬、」
「へ?」

唐突に話の流れを切る、笠松の低い声が黄瀬を驚かせた。

しかし一番驚いたのはそれではない。
その次、笠松の視線の先に居た"人物"に、黄瀬は思わず目を見開いてしまった。

「オイ、黄瀬」
「っ!」

其処に居たのは、もう全て終わりにした筈の青峰大輝だった。


「…何の用だよ、青峰大輝」
「別に、アンタに用はねえ。オレの用があるのはソイツだ」

笠松の言葉を流し、確かに黄瀬を指差した青峰。
黄瀬はなるべく青峰の顔を見ないように見ないように、と目線を下に下げながら、出来る限りの低い声で言った。

「…何の用っスか、青峰っち」
「うっせーよ。センパイ、こいつ借りるわ」

その言葉に嫌な予感を感じ、顔を上げたのも時既に遅し。
黄瀬の座っている席の真横にまで距離を詰めてきていた青峰に腕を掴まれ、恐ろしい力で引っ張られた。それに驚くも転ばないように体制を整えようとするが、そうする暇も無く歩き出す青峰に、座っている自分は立つしか術が無かった。最後に辛うじて黄瀬が見た笠松の表情は、酷く険しいものだった。




「っつ…!」

外に出て路地裏に引き込まれるまで何度か抵抗を示したものの、恐ろしい程の力で手首を掴まれている為少し手首を捻っただけでも骨がミシミシと軋む感覚がした。
どうやって逃げようか、そう考えている最中に手首の拘束が解けた。そう思った瞬間、コンクリートの壁に投げつけられるかのように背中が触れた。

「いきなり何の真似っスか!」
「それはこっちの台詞だ、黄瀬!」

怒りが湧きあがった黄瀬は衝動のままに青峰を睨みつけながら言葉を吐いたが、対する青峰の怒声と顔の両側につかれた手に、思わず息を呑んだ。バシリ、と青峰の手とコンクリートの壁が激突した音がし、同時に黄瀬は自分が逃げられなくなっている事に気が付く。

深く眉間に皺を寄せている青峰の表情を見て、黄瀬が怯む。
その隙を見て青峰は口を開いた。

「なんでいきなりオレから逃げんだよ!」
「っ、」
「そんでやっと見つけたと思えば今度はセンパイと仲良くお喋りってか?ふざけんなよ黄瀬!」
「ふざけてんのはアンタの方だろ!!」

静寂。
それまで捲し立てていた青峰さえも、黄瀬の突然の声に黙り込んでしまう。

「…オレがアンタから逃げたって?中学時代、オレが幾ら追いかけても逃げたのは何処のどいつだよ…!オレがどんな気持ちでバスケをしなくなったアンタを見てたか、バスケに誘っても悉く断られたオレの気持ち、アンタには一生わかんねえだろ!」
「……」
「今更戻って来られても困るんス。オレにはオレの道がある。わざわざ青峰っちに合わせてあげるほど、オレは出来た人間じゃ、」
「黄瀬」

そっと、壁についていた青峰の右手が黄瀬の頬に触れた。
其処で漸く気が付く。


あれ、オレなんで泣いてんの?


「黄瀬、ごめん」
「は…?意味わかんねえし、も、やめて…触んないで、」
「ごめん、悪かった」

ひたすら謝り続ける青峰は、同時に黄瀬の目からぼろぼろと零れる涙を指で拭い続ける。黄瀬はその手を振り払おうと顔を振ったが、青峰のもう片方の手で顎を掴まれ視線を上げられた。ばちり、黄瀬の潤んだ目と青峰の細められた目が合う。
間髪入れずに、青峰は黄瀬の唇に自らのそれを重ね合わせた。

「ん、うっ…」

僅かに引いた顎を逃がさないように、体ごと壁に押し付けてもっと深く舌を差し込む。くちゅ、と水の音がし、暫くしてから青峰は唇を離した。頬が紅潮し荒い息を繰り返す黄瀬がふいっとそっぽを向き、小さな声で言う。

「最低っスね、アンタ」
「……」
「今更どうこうしたってもう遅いんスよ」
「遅くねえよ」
「は?」
「遅くねえ」

覚悟を決めたような、何かを悟ったような青峰の珍しい声音に、黄瀬は視線を青峰の顔に戻した。其処には真っ直ぐな目をした青峰が居り、その表情に黄瀬が目を見開いたと同時に背中を向けて歩き出した。

「ちょ、何処行くんスか!」
「決まってんだろ。センパイのとこ」
「はあ!?」
「お前がもう別の奴のモンになっちまってんなら、奪い返すまでだ」

ちらり、と此方を見た青峰の目は、試合中に好敵手を見つけた時のようにぎらりと輝いていて、見ている此方がぞくりとするくらい恐ろしいものだった。



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なんか衝動的に書き殴った酷いもの
本当すみませんでした

comment:(0)
2012/09/27 22:49

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