04 | ナノ


「あ、ナマエ」
「あぁ、ナナバか」

 私の彼氏は自慢じゃないけど超かっこいい。

「なんだよナナバかって、別校舎で会うなんて珍しいから声かけたのに」

 物腰も柔らかいし、こんな風にちょっとすねて口を尖らせている姿でも不思議とかわいいと思えてしまう、さっき言ったことと矛盾してはいるけどすねているナナバを写メ撮りたいくらいかわいいのだ。

「別にいつも一緒に帰ってるじゃん」

 かっこいいかわいいと思う反面全然口に出せていない私はいつもこうやって憎まれ口を叩いている。今こうやって会えて話しをしているだけでも月並みな表現だけれどドキドキしてる。

「まあそうだけど、何でこんなとこに?」
「日直、先生のお手伝いですよー」
「世の中そううまくはできてないね、その調子だと何処かで先生に見つかって押し付けられたんでしょう」
「うんそんな感じさっすがナナバ。乙女ゲーとかギャルゲーとかだったらそこで手伝うよって感じでイベントが発生するんだろうけどねぇ」

 うわ、って思った。ナナバをちらりと見るとくすりと笑ったような気がした。嗚呼、動機が激しくなる。

「ええぇそんなこと言わないでよそんなフラグかったっぱしからへし折っちゃってよ私のために、」

 体の中から熱が沸いてきてるような気がする、はじめの日直でナナバの語尾と被ってしまったのは本当にただの偶然なのだ。それでもなにか思い付いたように、しりとりを仕掛けてくるなんて狙ってんのかよと言いたくなってしまう、まるでいたずらっ子な子供みたいだ。

「に、ってことはやっぱり嫉妬しちゃうから、とか?」
「か、勘違いしないでよね別にあんたのためにやってるわけじゃないんだからね」
「念のために聞いとくけどそれどっからとってきたの」
「ノウハウ・オブ・ツンデレを学んでいる最中なんだよ私」
「仕事しろ、勉強しろ学生」

 ――ツンデレナナバを想像してしまった私死ね。

「いやだよ、こうすると名前構ってくれるし」
「将来が心配だ、で、もうやめない?」

 ツンデレナナバの声真似(くぎ●うボイス)が以外にも上手かった事は置いておいて、ツンデレのデレが来たぞとか思った私は一回地獄に落ちるべきだと思う。なんか仮にも恋人で彼氏なのに異様に申し訳なく思ったのだ。

「いいでしょ何でそんなこと言うのさ私のかわいいナマエはいつからこんな風になったのか」
「……いっつもこうだよほら、ん」
「えーそう簡単に終わらせないでよ」
「はいはいもうおしまいね昼休み終わっちゃうし」
「そういえば、ナマエはお昼まだなんだ」
「え、よくわかったね」
「……ちょっと変態を見るような目で見ないでよ、名前はお昼ご飯食べる前に必ずアルコールで消毒するでしょ、それで匂いがしなかったからわかったんだよ」

 そう、この季節にアルコール消毒は欠かせない、風邪は万病のもと、どうでもいい話中学の時冬に40度を越える熱を出したときに手洗いうがい、そして消毒を忘れないと心に誓った、あんな辛い思いはあとにも先にもあの一回限りで済ませたい。

「ああ、なるほど」
「今日はどこで食べるの?」
「んー特に決めてないよ」
「あ、じゃあこれあげる」

 子供は風の子なんていうけどこの季節に見た悪夢を私は忘れてはいないわけで、風の子なんて年でもないし。そもそも風の子になるつもりが風邪になってしまったら元もこもない。

「っわ、」

 ふいに熱いものが首筋を撫でる、冬場だからボタンを第2ボタンまで閉めてあるのにそこからわって入ってきた。ちなみに制服のボタンは冬場でも夏場でも第2ボタンまでだ。

「ふふびっくりした?」
「え、っとカイロだよねこれ」
「そうこんな日に外に出ることなんてないだろうけど一応ね。開けたばっかりだからまだまだ長続きすると思うよ」
「いやでもナナバはいいの?」
「私は大丈夫、それよりナマエに風邪引かれる方が辛いから」
「っな、」

 何いってるんだナナバは!!かあっと顔に熱が集まるのを感じた、それを見られるのが嫌で手で顔を覆う。

「あ、照れてる」
「実況しなくていい!!」

 ここがどこだかわかっているのか、あまり人が通らない場所でもいつ人が来るかもわからないし、そもそもここは学校だ、恋にうつつを抜かす場所じゃなくて勉強をする場所なんだ。そう思うと同時に、へなへなと冷たい床に座り込んでしまった。

「……ナマエの照れるポイントがいまいち私にはわからないなあ」
「わからなくていい!!」
「そう?私は好きな子の事はなんだって知りたいんだけどなあ」
「っ、っもう! ばか!! ばかぁ……」

 そう自分を律しようとしているときに更なる爆弾発言、もう恥ずかしくて死んでしまいそうだ。恥ずかしくて恥ずかしくて全身リンゴのように真っ赤になっているような感覚に陥る。

「ナマエはかわいいね、じゃあ私はそろそろいくよ。用事があるのすっかり忘れてたし、また放課後」

 くすくすと一通り私をからかったあとナナバは私を立ち上がらせ颯爽と別校舎の奥の方へ行ってしまった。

「……はずかしい」

 へなへなとまた座り込んだ床の冷たさがやけに心地よく感じた。

 結局お昼ご飯を食べている途中でチャイムは鳴ってしまった。怨みたい気持ちで一杯だったけど、正直昼休みのナナバでお腹一杯である。




 放課後図書室にいって宿題やったりとナナバが部活終わるまで暇を潰しているとナナバからメールが来た、部活が終わったから先に校門で待っていてほしいとのことだった。

 荷物をまとめナナバからもらったカイロに触れる、もう冷たくなりかけていた。はあ、とため息をひとつこぼす、ナナバはいろんな面を持っていると思う。
 かっこいいナナバ、優しいナナバ、オチャメなナナバ、とても同い年とは思えないほど大人びているナナバ、だけどたまにどれが本当のナナバかわからなくなってくるのだ。ナナバが私の前に現れるたびドキドキする、昼休みの時だって子供っぽかったり、優しかったり、悪戯っ子だったり、もうナナバに翻弄されっぱなしなのだ私は。

 けれど、きっとナナバからすればどれも全部作り物なんかじゃなくて、全部本当のナナバで、すべてナナバを形作る部品のひとつなのだ、ひとつだってかけてはならない。

 もうすぐ春が訪れる、校門近くに生えている桜のつぼみをみてそう思った。雪と同時にナナバの心の外壁も溶かしてしまえたらいいのにとありもしないことを考える。さっき考えていたことと矛盾だらけだ。でももし本当に溶かしてしまっても私には本当のナナバはどんな風に笑ったり怒ったりするのか全くわからないのだ、だからまた疑ってしまうのだろう、ああ、私はいつになったらナナバを信じられるのだろうか。





 ――楽しんでたくせに、なんてどこからか声が聞こえたような気がした

 どれも本当ってわかってるけどわかりたくないの

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