04 | ナノ


 幼なじみのライナーの部屋は男性の部屋とは思えないくらい綺麗に片付いていて、いつも爽やかな良い匂いが充満している。家具もシンプルに大人っぽく、ライナーの内面を部屋に例えるならまさにこんな感じ。

 そんなライナーの部屋で雑誌を読む私に、溶けてしまいそうなくらい熱い視線が突き刺さっている。
 背後からじっとりと感じるその視線の正体は、もちろんこの部屋の主であるライナーだ。彼の何か言いたげな視線を受け続けてかれこれ十分くらいになる。まったく、言いたいことがあるならさっさと言えばいいのに――――しかし彼が言いたいことは恐らくいつもと同じことだから、私はあえて何も言わずそのまま放置することにした。
 ライナーの視線に気付かないフリをして、雑誌をめくる。もしかしてこの雑誌に何かやましいことでも書いてあるのだろうか。と思ったが、どう考えても野球専門雑誌にそんな記事が掲載されているわけがあるまい。プロ野球に関する豆知識コーナーに目を通していると、ライナーがしびれを切らしたように咳払いをした。

「なによ、ライナー」
「……もう分かってるはずだぞ、ナマエ」
「言ってくれなきゃ分からないもの」
「あのなぁ……」

 頼むから俺を煽るのは止めてくれ、と額に手を当ててライナーがぼそりと吐き出すように言う。

「彼氏の部屋に入るなんて、襲ってくれと言ってるようなモンだって何度言ったら分かる?」
「私は平気だって言ったじゃない」
「…………」

 ライナーは小さく唸ると、またノートにペンを走らせた。カリカリと文字を書く音がいつもより乱暴なのは気のせいではないだろう。

 つい先日、私はようやくライナーの幼なじみから彼女へ昇格した。ライナーのことが物事ついた時からずっと好きだった私は、一つ上の彼が通う(私にはいささかレベルが高すぎる)高校に行くために寝る間も惜しんで勉強をした。そんな私に忙しい部活の合間を縫って勉強を教えてくれたライナー。彼がどれだけ優しい人かは、私だってよく知っている。
 だから彼がいつまで経っても私に手を出してこない理由も、ちゃんと分かっているのだ。

「ライナーが動かないなら私が無理やり動かしてやればいいかなと思って」
「なんてことを……っおい?!」

 はあ、とライナーがため息をついて、大きな手で顔を覆ったのを見計らって私はライナーの巨体に抱きついた。慌てて私を押し返そうとするライナーの胸に顔を擦り付けると、そこにある心臓が大きな音を立てて動く。もう一度ライナーが抵抗しようと試みたけれど、逆に私は彼を後ろへ押し倒した。
 ライナーが落ちてきたことでゴトリと重そうな音を鳴らす床は、今日の温度と比例するかのようにひんやりと冷たい。顔を真っ赤に染めたライナーの首に腕を回して、そこに口づける。

「っ……な、おいっナマエ!」
「……ん、……ね、ライナー」
「この……っ!!」

 ちゅ、ちゅ、と音を立ててキスをして、ライナーの名前を耳元で囁く。そしてそのまま赤い耳に同じようにキスを落とせば、ライナーが突然起き上がって私の肩を乱暴に床へ押しつけた。

「お前は、本当に……っ!!」

 そう言って私の唇を塞ぐライナーは、見たことがないくらいに余裕の無い表情だった。酸素が無くなるくらいに角度を変えながらキスをされ、頬、瞼、そしてもう一度唇へ噛みつかれる。

「……もう止められないからな」

 ギラギラと瞳の奥に隠れたライナーの本心をようやく見れたのが嬉しくて、返事をする変わりにその薄い唇にキスを一つ。荒くなった息を整えながら、我ながら下品でどうしようもない考えだと頬が緩んだ。顔の横に乱暴に添えられた手から、唇から、ライナーの身体の熱が私に移っていく。
 いくつものキスの間に囁かれた愛の言葉は、どうしようもない私の心をじわじわと満たしていった。




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