04 | ナノ


 ああ、あつい、あつい。
 背骨がぐずぐずと煮えたぎるように熱い。
 子宮から伝って、背骨の、その中の液体やらなんやらが混ざって混ざってかきまぜられて、熱を放っている。
 陰鬱な私には眩しすぎる冬の日の光は窓から教室の中を照らしていて、ベタだけれど、まるで彼のようだと思った。

 彼は今、多分登校してきたばかりだから暑いのだろう、ジャケットを脱いでいた。
 真っ白なワイシャツが私の目には眩しくて、直視できなかった。
 私に話しかける人なんていないから彼の動作をずっと眺めていられるけど、こうして眩しすぎるのは嬉しくない。
 その静かな面持ちや男の子らしい体つきや手を見ていると、ぐずぐずと私の中の全てが沸騰するように熱くなる。
 きっと私の体を切ったら、どろりとした熱いなにかが溢れてきて、誰も触れられないだろう。
 彼には、彼だけには触れさせてあげるけど。
 身体中を駆け巡る熱は、しかし私の体の中から解き放たれることはない。
 だって彼とは友達でーー否、友達ですらない。
 ただのクラスメイトでしかない。
 彼と関わりがあるのかと聞かれればわ私は無いにひとしいと答えるだろう。
 彼が私を認識しているのかどうかもわからない。
 認識していたとて、あああの子か、ぐらいにしかわからないだろう。
 そんなものだ、私の存在など。

 たまに私は彼を見つめて、ひどく感傷的な、それに近い感情に支配されることがある。
 きっと私は泣きたいのだろう。
 あの茶色いふわふわとした猫っ毛だとか、金色に輝く大きな瞳だとか、高いのだか低いのだか分からない不思議な声だとか。
 ぜんぶ全部、泣きたくなるぐらいに、エレン・イェーガーを構成している。
 そしてそれら全てが私の身体中を熱くさせる。
 かわいいあの子と話しているのも、私の知らない笑顔を私の知らない誰かに与えるのも、ひどく不快だ。
 そう考えて、私はいつもため息をつく。
 こんな鬱々とした私が彼の金色に映るはずがないのに。

 多分、私には眩しすぎたから彼に惹かれたのだろう。
 月が太陽に惹かれるように、光と影が対称に描かれるように。
 彼はピアノの音が一音だけ違うように私の頭の中全部をかっさらって行く。
 毎日彼を眺めて、一人身体中を熱くして、虚しさに風呂の中で暖かな涙を流す。
 きっとそれは毎日変わることなく、卒業までそのままで。
 ああ寂しい、さみしいと自分を労って可哀想にとかわいがって泣くのだ。
 愚かしいと、自分自身を諌めながら。

 朝、私は学校で彼を眺める。
 昼、私は学校で彼を眺める。
 夕、私は学校で彼を眺める。
 夜、私は家で彼を想って涙を流す。
 全ては私が彼を想うことで成り立っていて、それは決して彼からの感情が関わるものではない。
 なんと非生産的で効率的なことか。
 彼からの感情は私に向かない、分かりきったこと。
 それでも私は、彼を、エレン・イェーガーをかたちづくるひとつの個体となりたい。
 そうしたらきっと私は永遠に安眠できるのだ、永遠に。

 私はそこまで思って、すい、と視線を彼からずらした。
 机の上には暖かそうな色をした太陽の光が置いてある。
 私はそれを押しつぶすようにして、頭を机にくっつけた。
 耳の中には誰の声も入ってこなくて、静かな私の体。
 誰も知らない、私の体の中の高温など。
 知らなくていい、彼にも知られなくていい。
 ……いや、知ってほしい、知って私を彼のひとつにいれてほしい。

 目を瞑る。
 彼の感情が向かうただ一つの個体になったことを想像しながら。
 そうすることで私は暖かな日の光に包まれている気がしてきて、俗に言う安心感に包まれる。
 それは母親の胎内にいた頃に覚えた感覚。
 彼を羊水だとすれば、私は母の柔らかな脂肪だろうか。
 そうして虚しい幻に浸って、私は眠るのだ。
 ゆらゆらと、ぐらぐらとマグマに揺られて。




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