02 | ナノ


※女の子同士





 寒さが深まってきたこの頃。
 わたしとユミルは中庭にあるベンチに座っている。春から秋にかけては木が多くて涼しく快適、ということで大人気の学校スポットだが、冬は寒いから外に出たくない人が多いのだろう。わたしたち以外の人気が全く感じられない。つまり、こんなに寒い日に外に出る物好きはわたしとユミルだけということだ。

「ユミルは知らないだろうけど」
「何をさ」
「人工衛星って、英語でサテライトって言うんだよ」
「ふーん」

 わたしがとても素敵なことを教えてやっているというのに、当のユミルはこちらの方に顔も向けず、ずっと携帯をいじっている。
 どうせクリスタとメールをしているのだろう。それにしても、女神も人並みに風邪をひいたりするんだなぁと思ったのはわたしだけだろうか。

「聞いてる?」
「んー」
「人の話は、ちゃんと目を見て聞きなさい!」
「むぐっ!?」

 ユミルのほっぺたをつかんで半ば無理やりわたしの方へ顔を向かせる。
 というか、目を見て聞くこと以前に、わたしと話しているのにクリスタにメールをしているってどういうことだ。
 いや、ユミルがクリスタにぞっこんなのを承知の上でこうしてつるんでいるのだから、メールをしているくらいで腹を立てるわたしほうがおかしいのか。

「……まあ、いーや。わたしもクリスタにメールしよう」
「テメェ」
「送信、っと」

 わたしが言うと、ユミルがあからさまに嫌そうな顔をする。
 あ、もう返信がきた。

「えーっと、なになに……『メールありがとう! ユミルとライナーからしかメールこなくてつまんなかったんだ(顔文字)風邪の方は、もう治りかけだよ〜(星)』……だってさ」
「つ、つまんなかたって、はあ!? っていうかライナーまでメールしてたのかよ!」
「っ……はははは!! つまっ、つまんなかったって! あ、返信しないと……っふふふ」

 いつまで笑ってんだテメー、というユミルの言葉を無視して、笑いながらクリスタに返信する。
 ユミルってばわたしの話をきかないでクリスタにメールばっかりしてたんだよ(怒った顔文字)……よし、送信っと。

「あ、もう返信きた」
「なんて?」
「えーと、『もう、ユミルったら〜(怒った顔文字)! つまらないメールを送る暇があったら、人の話をちゃんと聞きなさい! ってユミルに言っといて!』……だって」

 おい、あのユミルがとうとう泣きそうになっているぞ、クリスタちゃんよ。

「わたしのクリスタを横取りしやがって、このっ」
「いひゃいいひゃい!」

 ぐいーっ、という擬音が付きそうなほど強い力でユミルにほっぺを引っ張られる。
 おいこれ、女子高生の力じゃないぞ!

「うう、涙出てきた……」
「わたしのクリスタを横取りするからだ。この泥棒ネコめ」
「どこの昼ドラだよ」

 わたしのクリスタ、だって。
 ユミルはどれだけクリスタのことが好きなのだろうか。あれ、なんだか胸がチクチクする。
 というか、ユミルのクリスタへの愛が重すぎて、華奢なクリスタは潰れちゃう!?

「ねえユミル……クリスタを潰さないでね」
「は?」
「あ、そういえばクリスタに返信しないと」

 そういえば、ユミルと人工衛星について話てたんだけど(ほとんどひとりごと)、クリスタは宇宙に興味ある? ……送信。

「ユミルはさ」
「なに」
「どれくらいクリスタのことが好きなのか、教えてよ」
「そりゃ宇宙がわたしのクリスタへの愛で包めるほどに……」

 ドヤ顔でクサいことをいうユミルにうわぁ、と言うと、またほっぺをつねられた。痛い。
 というより、わたしの心が痛い。
 もちろん、ユミルは友達としてクリスタが好きということは分かっているけれど。
 わたしは。

「わたしもそのくらいクリスタが好き」
「クリスタはわたさん」
「でも、ユミルのことはもっと、100倍くらい好き」

 わたしがそう言うと、ユミルは今までに見たことないくらい困った顔をした。

「あ、そうだ。わたし、ユミルと宇宙に行きたい」
「……は? というかお前、私のこと……え?」
「そしたら、今日みたいにユミルと二人っきりになれるし」
「ちょっと待て、」
「好きだよ、ユミル」

 困惑したような、焦っているような顔をしたユミルの、その薄い唇に口付けた。
 わたしが握りしめている携帯が震える。あ、クリスタから返信がきたんだ。

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