01 | ナノ


「……あれ?」

授業の用意をしようと机の中からノートを取り出すが、教科書が見つからない。

「おかしいな……」

鞄の中も探す。……だが、ないものはない。

「…………忘れちゃった……?」

またやってしまったのかと自分で自分が嫌になる。
いつもそう。宿題だってちゃんとしているのに、その書いたノートを忘れてしまうのだ。
だから結局周りの皆に見せてもらってばかり。

「……………」

確か一昨日もその前も忘れた気がする。
また皆に迷惑をかけるのは申し訳ないし嫌だけど、だからといって教科書無しで授業に挑む勇気なんて私にはない。
仕方ない、誰かに借りようと決めて、友達を順番に思い浮かべていく。
アニは……この間英語の宿題を写させてもらったばかり。エレンにも昨日、数学の予習ノートを貸してもらった。……まあ、エレンのはほとんど全部間違ってたけど。
ベルトルトにはいつも勉強教えてもらっているから、これ以上迷惑はかけられない。ライナーは……。……ライナーにはよく忘れ物を借りてるし、今回も借りていいかなぁ……?「またか……」って呆れられるかもしれないけど、今度何か奢るから今日はとりあえず貸してもらおう。

「えーっと、ライナーは……」

ライナーのいるクラスに行こうと立ち上がった丁度その時、机の上に今まさに借りにいこうとしていた教科書がとんできた。
ペシッと小気味いい音をたてて机に落ちたそれをしばらく呆然と見つめる。

一体誰が、と思いとんできた方を見ると、腕を組んで座っていた隣の席のジャンと目が合った。

「…………」
「…………」
「……えっと、これ……ジャンが?」
「おう」

私は仏頂面のままそう言うジャンの言葉を教科書を貸してくれるという意味だと受け取ってそのままストンと席に座る。

「……ったく、どうせ忘れたんだろ? ほら、貸してやるよ」
「ごめんね、ありがと」
「……別にこれくらい謝られる程のことでも礼言われるようなことでもねえよ。……つーかんなこと言ってる暇あったらちゃんと教科書持ってこいっつーの。お前の教科書には足でも生えてんのかよ……」
「えへへ、返す言葉もないです……」
「ねーのかよ。……あー、もう忘れ物の話はいいから。それよりお前、今日この辺当たるぞ」
「えっ、嘘!」
「嘘じゃねえよ。……ほら、見せてやるから今の内に頭入れとけ」
「ありがと〜!」

お礼を言って見せてもらうまではいいんだけれど、二人で一つの教科書を見ようとすると、必然的に肩が触れ合う程の近さになるので少し緊張してしまう。
でも、隣の席の特権って感じでちょっと嬉しくもあって。

「…………」
「……そこ、まだ習ってねーけど? こっちだこっち」
「えっ!? ……あ、あーごめん、ぼーっとしてた!」
「はあ? おっ前……ほんっと呑気だなぁ……」

呆れたように言うジャンに思わず私も苦笑いを返す。

「え、えへへ……」
「わからないところがあるわけじゃねーんだろ?」
「う、うん」
「じゃあ多分ここの問題とこの辺の解説見とけりゃどんな設問当たっても解けるから、ちゃんと見とけ」
「は、はい。重ね重ねありがとうございます……」

てきぱきと説明してくれるジャンの話を聞きながら、改めてジャンの教科書を覗き込む。
先生が言った重要語句の所にアンダーラインが引いてあったり、テストや提出のメモが書いてある付箋が貼ってあったり。すごく丁寧で見やすい綺麗な教科書に感動してしまう。

「まずここは……」
「……優しいね、そういうところが好きなんだよ」
「あ? 何か言ったか?」
「んーん、何でもないよ」

荒っぽく見えて、本当はすごく真面目で優しい。そんなジャンが私は大好きなんだよ。
この気持ちを伝えたらどんな顔するだろう。冗談だろって笑われる? びっくりされる? ……それとも、喜んでくれるかな。
予想できないジャンの反応を考えると楽しみで、緊張して……少し怖い。

だからまだこの気持ちはジャンに伝えないって決めたの。
ずるいかもしれないけど、今はもう少しだけこのままでいさせてね?




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