この人はずるいと思った。
 詐欺師だかなんだか知らないけど、本当の気持ちだなんて見せてくれないから。

「なんじゃ赤也、えらく不機嫌じゃのう」
「…別に。そんなことないっスよ」
 俺、ばっかりが。先輩と一緒に過ごす度に俺の頭の中はこの言葉で埋め尽くされる。告白してきたのはこの人の方だというのに、その時だって命令に近い口調でただ一言"付き合え"と。それから一度もその口から自分に対する好意を聞いたことがなかった。
 いつの間にか自分の傍に寄ってきているから嫌われてるということはないんだろう。でも普通"好き"くらい言うだろ!?いつまでペテン決めこんでんだ!!そんな矢先だよ。

「不満なことがあるなら言いんしゃい。訳も分からんのに膨れられるのは困る」

 苛立ち。爪先から脳天まで一気に上昇するかの様な感覚。
 あ、これ悪魔化する時と感覚似てる。冷静に考えたと同時に身体が勝手に動いていた。
「…赤、也」
「訳分かんねえのはどっちだよ!俺ら付き合ってんじゃないのか!なんで…っ!」
 襟首掴んで床に背中を打ち付けて、思いっきり怒鳴ってやったら大きく目を見開かれた。それでもやっぱ頭ん中は冷静に"やっちまった"なんて言ってる。それと同時くらいか、急に目頭が熱くなって視界が一気に歪んだ。ああ、泣いてんのか俺。
「なんで…どうしてアンタは俺に告白なんかしてきたんスか…」
 ボタボタ勝手に落ちる涙はもう止まらなかった。先輩の顔にめっちゃ落ちてる。
「これじゃあ俺ばっかりが、アンタのこと好きみたいで…」
 瞬間、暗転した。いや、そう思ったけどいきなり引っ張られたみたい。すぐ後に先輩の温度が掌と頬に伝わってきて、抱きしめられてんだって分かった。つーか吃驚して涙引っ込んだんスけど。
「不安にさせて悪かったのう。じゃが、そう心配しなさんな」
 そう言って俺の頭を撫でる手に酷く安心する。こんなんで嬉くなるって餓鬼かよ。
「今まで、お前さんが俺のことを"好き"というまで待っとったんじゃ。自分から言うのは柄じゃないきにの」
「待って…た?」
 あれ?なんか余計に混乱してきたんだけど。ちょっと待って、じゃあ先輩は俺から言わせたいっていう意地だけで今まで言わなかったってことか。

「好いとうよ、赤也」
「…やっぱアンタなんか嫌いだ」
「え!?何故じゃ!?」

 なんだかムカついたままだけど、腕の温もりと先輩の焦った顔が好きだったから気にしないことにする。


詐欺師の策を持ってしても
(悪魔には通用しないよ、先輩)


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