あまりにも呆気なかった。
目の前に倒れ伏している男は本当に"鬼神"と呼ばれていたのか、それすら疑問になるほどだ。
顔を会わせるごとに賑やかで、喧しい、鬱陶しいとあしらっていた筈の存在は最早ピクリとも動かない。
「長曾我部」
返事はない。当たり前だ、もう心の臓は動きを止めている。そうしたのは他でもない自分だ。
それでもどこか、虚しさを感じるのは何故だろうか。自分は瀬戸内を挟み、四国を治めるこの存在を疎ましく思っていた筈なのに。
「…随分と法螺を吹くのが上手かった様だな。我を倒すなどと戯言ばかりを。自ら鬼と豪語したというのにその無様な姿はなんだ?」
憎い。ああそうさ、この男が憎い。期待ばかりさせおって、いざ相手にしてみればこれほどまでに脆弱だったとは。こんな男を少しでも信じていた自分にも嫌気がさす。そんな貴様は嘲笑われるが似合いよ。
そう思って、口角を上げた筈なのに。感情が溢れ出すように涙が頬を伝う。
そうさ、期待していたさ。信じていたさ。この男ならばと何度も考えた。我ながら浅はかな考えだったと自負している。
「貴様ならば、我を孤独から救いだしてくれると…。そう…信じていたのに……」
金属音を鳴らして落ちた輪刀は、鬼の血の色で鮮やかに染まっていた。
冷たい指先の待ちぼうけ
(愚かにもまた信じて手を握り、また来世)
配布元:fynch