和泉の死から一年が経つ。
俺は墓標に落ちた桜の花弁をそっと手で払い落とした。
俺は冷たい石碑に向かって問いかける。
和泉、愛しき人。どうして俺を残して逝ってしまったの、と。
だが、死人に口無しとはよく言ったもので、当然答える者などいない。桜を散らす春風が、俺の周りを吹き抜けるだけ。
優秀と謳われた彼女にとって、それはあまりにも呆気ない最期だった。
彼女の訃報を聞いた時、彼女の死に顔と対面した時、不思議なことに、俺は一滴の涙も溢さなかったことを覚えている。
命の灯火を吹き消された彼女の姿は、相も変わらず美しかった。
「勘ちゃん。」
背後から俺を呼ぶ声が聞こえる。
来たんだね、兵助。
振り返りもせずに俺はそう言った。
だけど、それ以上は何も言わない。
彼女がいなくなった今でも、俺は兵助の気持ちに知らんぷり。
そんな俺に兵助は、
「うん、」
今日は和泉の命日だろ。
消え入りそうな声でそう言った。
兵助の言葉に、風に、墓前に置かれた花がフワフワ揺れる。
彼女の墓は花で溢れかえっていた。それだけで彼女がどれだけ沢山の人々に愛されていたのかが伺える。
行儀見習いとして学園に入学し、自由に生きたいと、名家と名高い家を捨て、プロ忍としての道を歩んだ彼女。
早すぎる死だった。
この戦国の世で、況してやプロの忍という職で、彼女のような急ぎすぎた死は珍しくないのだけれど。それでも、
果たして彼女は幸せだったのだろうか。
そんな疑問が頭をよぎる。
俺と過ごした日々を、彼女は幸せだったと言ってくれるのだろうか、と。
その瞬間、俺の視界がジワジワと滲む。
今日だけは許してほしい。
( 追悼 )
この一年間分、存分に泣かせてよ。
20111022