ルックアットミー
ジュンコ。ジュンコがいない。
貴方はいつだってそう。
私のことなんて見向きもしてくれないの。私は貴方のことがこんなにも大好きなのに。
恋しき人が探しているのは、私をジッと見つめるこの赤い蛇。私が『ジュンコ、』と呼んで腕を差し出してみせれば、彼女はスルスルと私のそれに絡み付く。
貴女は綺麗ね。とっても綺麗。
そう呟きながら彼女の頭を撫でて、私は必死に声を張り上げる彼のもとへと歩き出す。彼ほどまでとはいかないまでも、私は委員会で飼育する動物が好き。蛇だって、ジュンコだって好きよ。
孫兵、ジュンコがいたわ。
私の声に、キラキラとした笑顔を浮かべて、ジュンコ!と叫ぶ貴方。蛇に嫉妬だなんて聞いたことがないけれど、その笑顔をほんの少しだけでも私に向けてくれたなら、と思ってしまう私は本当に馬鹿ね。
ありがとう、なし子。
その言葉は間違いなく私に向けられているはずなのに、貴方の視線は彼女を捉えて放さない。それがとても寂しい。私を見て、孫兵。そう思わずにはいられなかった。
『孫兵、』
「何だい?」
『私、』
貴方が好き。
長い間あたため続けていた想いが、いとも簡単に言葉となった。
「え、」
『貴方が好きよ。』
戸惑ったような様子の貴方に、今更になって込み上げてきた羞恥心。それと、普段はポーカーフェイスな彼の表情を崩すことができた優越感。
遂に言ってしまった。貴方は私の告白に、一体どう返事するだろう。キッパリ断られてしまうかもしれない。ただ、ごめんね、と謝られてしまうかもしれない。
「…なし子が僕のことを?」
『うん。』
その瞬間、彼の白い頬に朱色がさしたのが見えた気がして、私は少し驚いた。彼が私に背を向けて走り去ってしまったことにはもっと驚いた。
先程孫兵が見せた表情に私の心拍数は急上昇。
だってあんな孫兵、今までに見たことがなかったんだもの。
告白の返事をしないで去られてしまったことへの落胆もあったけれど、
脈あり、かな。
そんな期待をする私。
20111110