すがるようにキスして
僕となし子。
気がついた時にはいつも一緒だった。
朝から晩まで、それぞれが授業を受けている時間を除いて。いつも一緒。
僕の隣はなし子のもので、なし子の隣は僕のもの。
僕らのことを知らない人間は、僕となし子が恋仲なのだろうと言うけれど、彼らが言うようなそんな関係、今のところ僕らの間には一切ない。
僕の一番はなし子で、なし子の一番は僕、のはず。
それじゃあ、この関係に名前をつけるとしたら、一体何なんだろうね。
僕はそう尋ねてみた。
僕がせっせと穴を掘って、なし子がジッとそれを傍観する。もはや日課となった行動の最中での会話だった。
そんな僕の問いかけに、うん?と首を傾げてみせるなし子。
「僕の話聞いてた?」
『…大体。』
「そう。」
いつもこんな感じ。
僕らは人の話を真面目に聞いてないことが多いから。だから一々こんなことで腹を立てたりなんかしないし、もう一度言い直そうとも思わない。それもいつものこと。
僕もなし子も口数が多いとは言えないから、そこからは暫く沈黙が続く。
お互いにそれを気にすることはないから、別にいいんだけどね。
似た者同士。
僕となし子はどうもそれらしい。皆にもよく言われる。滝や立花先輩、その他にも色々。お前たちは本当にそっくりだな、って。
それに悪い気がしない僕がいる。
穴堀も終盤に差し掛かり、僕が丁寧に施したのは最後の仕上げ。
この子にはターコちゃん百三号と名付けよう。
誰に向かってという訳でもなく、僕はそう言った。
それから僕は着物についた土をポンポンと払って、なし子の方へ向き直る。
終わったよ。
僕のその言葉になし子は頷いて、しゃがみこんでいた足に力をいれて、立ち上がろうとするけれど、
ん?
落ちた。僕が今しがた完成させたターコちゃん百三号に。
僕は思わず目を瞬かせた。
おやまぁ、
これはこれは、と僕は穴の中を覗き込む。
穴の底では先程の僕と同じようになし子が目を瞬かせていた。
僕はピョンと穴の中に飛び込んで、着地。
まだ仰向けになったまま空を仰いでいるなし子の横に腰を下ろす。
「なし子。」
僕の声になし子は何も返事をしなかった。
疑問符を浮かべながら、そんな彼女の顔を見てみたら、なし子の艶やかな唇が目に入った。
思わずゴクリ、と喉が鳴る。
僕はなし子の顔の横に手をついて、その唇にそっと僕のそれを押し付けた。
実はこれが初めての接吻。
「…ドキドキした?」
『…うん、ちょっと吃驚した。』
「そう。」
こんな時でも僕らの淡々とした口調は変わらない。
僕はもう一度なし子口付けた。今度はもっと深いやつ。
苦し気に息を洩らすなし子にジンジンと自身が熱を持つ。
僕らの関係って何なんだろうね。
僕の行為は、今までの僕らの関係を壊してしまっただろうか。
20111022