「……ごめん、ごめんね、翔ちゃん……」
「薫………」



涙を流しながらごめんねと幾度も謝ると、その度に翔ちゃんはもう泣くなと声をかけてくれた。僕はこんなに軽く、ごめんねで許される罪なんて持ち合わせていなかった。僕と翔ちゃんは双子で、本来は全てを半分に分けあって生まれるはずだったのに、残念ながらそれは叶わなかった。僕は翔ちゃんの分の元気まで取って、翔ちゃんはその分いつも辛そうにしていた。僕は家で本を読んだり、翔ちゃんと話したりしているだけで満足できるような、典型的な内気の口下手だった。けれど翔ちゃんは明るくて社交的で、外で遊んだりするのが好きだった。それなのに翔ちゃんは体が弱くて、満足に外で遊ぶことも儘ならなくて、小さい頃は入退院を繰り返す生活をしていた。本当は誰よりも辛い生活を送っていたはずなのに、翔ちゃんはいつも笑っていた。だから僕は、翔ちゃんが無慈悲な笑顔を浮かべていても、笑って返してあげることに決めたんだ。だけどやっぱり、翔ちゃんがアイドルになると、家を離れて早乙女女学園に入ると言った時、僕は猛反発した。
 翔ちゃんが倒れたら大変とか、急に発作が起きたらどうしようとか、そんな心配事ばっかりで。けれど結局翔ちゃんは行ってしまって、また僕は見送ることしかできなかった。



「翔ちゃん、僕、やっぱり」
「違う、薫のせいじゃない」



―――生まれなきゃよかったんだ。そう呟こうとしたのを翔ちゃんに制止され、ぎゅっと抱き締められた。違うよ翔ちゃん、僕が生まれて、僕が翔ちゃんの元気を取っちゃったからいけなかったんだ。初めから僕なんて存在しなければよかった。そう思うと本当に自分に嫌気がさして、翔ちゃんの服に涙がついちゃうとか、泣き顔を見られるとか、もはやそんなことを考える余地もなく泣いてしまった。



「いいか薫、よく聞け」
「………」
「俺とお前は双子なんだ。どっちかが欠けたら生きていけない、一人じゃ生きていけない、そういうもんだろ?」



ぽんぽんと翔ちゃんの手が僕の頭を撫でた。小さい頃、翔ちゃん絡みのことで僕が泣き出すと、決まって僕を抱き締めて頭を撫でてくる。それは翔ちゃんの精一杯の優しさなんだと、僕自身もわかっていた。だから僕はその翔ちゃんの手の感覚が大好きで、泣いている意味の不謹慎さも忘れて、その手の感覚だけを凄く愛しいものだと思っていた。僕の、僕だけのものだと。



「ほんと……?」
「当たり前だろ!俺が嘘ついたこと、あるか?」



本来ならいっぱいある、けれどそれは優しさ故のものだと僕は知っているから、ないと笑って返した。ぼろぼろ流れていた涙を翔ちゃんは拭き取ると、いつまでもお前は泣き虫だなあと笑っていた。ごめんね翔ちゃん。きっと僕の罪は決して許されるものではないけれど、償うことはきっとできると思ってる。だからお願い、僕が弱音を吐いて、翔ちゃんに泣きついたその時は、絶対に翔ちゃんが僕のことを慰めてね。



110916
つらい愛をしよう



早苗さんお待たせしました
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