「ねえトキヤ!ポッキーゲームしようよ!」


そんな音也の言葉を聞き入れると、またかと私は溜め息をついた。そんな私を他所に、音也は嬉しそうにポッキーの箱を二箱両手に持って微笑んでいる。お菓子自体は先ほど翔がくれたもので、那月が変に買い込んできたからやると、そう困ったような表情を浮かべて置いていったものだ。彼も苦労しているのだと私は思い、その場しのぎのありがとうございますという言葉を口にし、受け取った。しかしそれが不幸か、見つけた音也は初頭の言葉を言ってきたのである。今日が十一月十一日だとか、そんなどうでもいい理屈に対して文句を言っているわけじゃない。なぜ私が音也とそんなことをしなくてはならないのか、そんな面で私は言っているのだ。


「嫌です」
「えー、なんで?キスなら今まで何回もしたじゃん」
「そういうことを言ってるんじゃありません!なぜそんなバカらしいことをしなきゃならないんですか!」


否、言い換えれば、恋人らしいことをするのが恥ずかしいのだ。確かに音也とは付き合っているけれど、そんな軽はずみなことはしたくなかった。だというのに正反対に音也はそういったことがしたいらしく、その面で私たちの意見は食い違っていた。


「一回だけだーかーら!」
「……あなたの一回は当てになりません」
「ほんとに!ね?」


首をかしげてそう笑う音也を見て、思わず言葉に詰まってしまった。可愛いなんて、不覚にもそんなことを思う自分を馬鹿馬鹿しく嘲笑い、仕方ないですねと返事をする。続けて一回だけですよと言えば、ありがとうトキヤ!と音也は嬉しそうにはしゃいでいた。


「じゃあー、はい!」
「………どうも」


とは言えやっぱり恥ずかしい。そう思うものの、笑顔でポッキーを差し出す音也からそれを受け取り、小一時間それを眺める。そわそわしている音也に急かされるように覚悟を決め、ポッキーをくわえて目を瞑ると、口の中に甘いチョコの味が広がった。そしてそれから少したつと、反対側を重みを感じ、指を重ねられる。お菓子が折れるぱきぱきという音が部屋に響いていた。そして食べ進めていく間、ふと鼻先が何かに触れ、カーッと顔が熱くなり、半分程度のところでポッキーを折ってしまった。


「あ」
「折っちゃダメじゃん!」


本当に反射的だった故に、直後に口から出た言葉も一言だけだった。一方音也は極冷静に怒っているようで、さっき鼻先に触れたのは音也の鼻だったらしい。というか音也は目を開けてさっきの行動をしてたんですか。すみませんでしたと謝れば、音也はぶつぶつと物珍しいことに文句を言っているようだった。声が小さいから何を言っているかはわからないけれど、唯一聞こえた言葉があと少しでキスできたのにという、そんな言葉だったからきっとろくでもないことだろうと思った。それに何れにせよあのまま続けていれば、間違いなく折れてただろうとも思う。


「あーあ、チョコの方もう少し食べたかったなあ」


本当にろくでもない理由で怒っていた、私はそう笑いそうになる。そんな可愛い文句を言い出す音也の手を握ると、なあにと少し頬を膨らましながら返事をする音也にキスをした。目を白黒させながら、初めは呆気に取られているようだったけれど、直ぐに指を絡ませながら、音也もキスしてくる。口腔に残ったチョコの味を味わう様に音也が舌を入れてきて、更に私が音也の舌に自分の舌を絡める。口許から唾液が垂れ、口を離すとお互いになんとも言えない空気になった。


「あなたがチョコの方が食べたいとか言うからです……よ」
「へへ、嬉しいからいいよ」


へらへらと笑う音也の姿を見て、釣られて私も笑ってしまった。甘いチョコの味と、それからなにか違っているけれど甘い味が幸せに思えた。そして同時に、この空間の空気さえも愛しく思った。そして箱からもう一本を取り出すと、それを音也の目の前に持ってきていった。


「もう一回、やりますか?」
「一度と言わず何度でも!」


そのポッキーを受けとると、音也は挑発的な笑みを浮かべていた。あと約二箱残っているポッキーがどうなるのか、とにかく今日は寝れなさそうだ。私はそう思った。




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チョコより甘い
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