好きな子ほど意地悪したくなるなど、そんなのは中学生レベルの恋愛だと思っていた。でもいざ本当の恋というものを知ると、そんな気持ちが自然と沸き出してくるものだった。彼、一ノ瀬トキヤの笑った顔はとても魅力的だった。だけどそれは笑顔だけじゃない、泣いた顔も怒った顔も、俺にとっては全てが輝かしいものに思えた。けれど一番胸が高鳴った表情は、嫉妬してる顔。やきもちを焼いて、じーっと俺だけを見つめている表情だった。多分トキヤも俺のことが好きなんだと思う。これは自惚れなんかじゃなくて、確信。だって俺と七海が仲良さそうに話していると、トキヤはそれを無感情な目で見つめている。しかし嫉妬をしているのはわかりやすいというか、俺と目が合うとふいっと逸らす仕草がひどく可愛かった。だから気付いていてても俺は七海と話続けていた。そしてトキヤを見つけると、いつもと同じように接する。その瞬間のトキヤの、嬉しいのを隠そうとする表情もまた可愛かったりする。結局のところ俺は、トキヤっていう人間の全てが好きで、そのためにわざと意地悪しちゃうんだな〜と自己完結していた。
そしてその日の夜、もう寝ますよとトキヤに言われ、ベッドに入って電気を消される。時計だけの音しかないその空間に、唐突にトキヤの声が響き渡る。



「音也はいつも、」
「んー?」
「七海くんと、何を、話しているんですか?」
「……………世間話だよ」



そんな曖昧な返答を返すと、トキヤは俺に背を向けていた。質問してきたのはそっちなのに失礼だなあ、なんて思いながらも、眠気に押し流されるように俺は意識を手放した。けれどその瞬間、トキヤがベッドから体を起こしていたような気がした。





目が覚めて真っ先に思ったのは、体が異様に重いということ。不思議に思って目を開けると、そこにはトキヤがいた。目を開けた俺と目が合うと、トキヤは一瞬迷うように動きを止めるものの、口を開いた。


「……おはようございます」
「えと、もう朝?」
「……………いえ」


ぎゅっとトキヤが俺のシーツを握る。いったいどういう状況なんだ、俺はそう思い、まず時計を見る。先程寝た時間からあまり経っていない深夜帯であり、そんな時間にトキヤが俺に跨がっていた。そんなことを整理している間に、もしかして、まさか、なんてそんな思いが俺の脳内を駆け巡った。少なからず俺の知る限り、一ノ瀬トキヤという人間はそんな大胆な行動は絶対にしない。けれど、今回みたいに俺が故意に意地悪をして、それが勘に触ったとしたらどうだろう。ドキドキと心拍数が上がる中、震える声を押し出し、トキヤに言った。


「あの、もしかしなくても………よ、夜這い……?」
「………あなたが悪いんです」


口を尖らせながらトキヤがそう答える。そんな姿に思わずときめいて、視線を逸らしそうになるものの、直ぐに向かい合うようになった。


「え、あ、じゃあ、トキヤも俺のことが好きで――」
「トキヤ……も?」


トキヤ俺の発言から言葉を拾うと、再び聞き返した。俺もトキヤのことが好きだったんだと言えば、はあ?と聞き返される。トキヤ曰く、前から俺のことが好きで、だけど告白という手段に中々手が出せなかったという。その一方で俺は七海と仲良くしている姿を見て、最初は仕方がないことだと割り振っていたものの、次第にそれすらも許せなくなり、告白というものを通り越して夜這いをしたという。


「それじゃあ、まさか、あなたも私のことが……?」
「だから言ってるじゃん!ずーっと好きだったって!」
「じゃあ……どうして七海くんとあんな親しげに話していたのですか!」


泣き出しそうな表情のトキヤにそう言われ、思わず言葉が詰まってしまう。言えるはずがない、嫉妬されるってわかっててあんなことをしてただなんて。怒った顔が見たかっただけだなんて。


「…………そりゃあまあ、いろいろと……」
「もう……色々いいです」


寝ますねと言い残し、俺から降りようとするトキヤの腕を掴んだ。何してるんですかと言わんばかりの表情をしているトキヤにいう。


「なにもしないつもり?」
「…………は?」
「夜這いしてきたのはそっちじゃん。せっかく両思いなのになにもしないの?」


ぐっとトキヤの腕を引き、俺のベッドに組み敷くと、ハッとしたようにトキヤが頬を紅潮させていた。可愛いなんて呟いて、同じシャンプーを使っているはずなのに、全く違う髪質をしているトキヤの髪の毛に指を差し込む。


「俺はしたいな。ずっと、トキヤのことが好きだったから」
「あ………」


熱を孕んだような表情でトキヤを見下ろすと、トキヤは顔を真っ赤にしていて、手で顔を覆っていた。耳元にキスを落として、小さく呟く。


「ねえ、トキヤは俺が好き?」
「……………は、い」


質問の後、ゆっくりとトキヤはその返事をした。そんな返答を聞き入れると、自分でいっておきながら、そんな事実に思わず嬉しくなる。だからトキヤの手をどけて、再びトキヤの顔を見た。よっぽど恥ずかしいのか、真っ赤に染まっている顔が凄く可愛くて愛しくて、ずっとずっと欲しかった。笑って好きだよと小さく言葉を洩らすと、トキヤに深いキスをした。




111025
溺れいく微笑みの誘惑


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