最初は放っておけない子だと思った。危なっかしくて、自分でそれを弁えてるくせに人の良さのせいで危ないことでも首を突っ込む。だけど彼女の優しさは本物で、見返りなんて絶対に求めない。慎ましくて、可憐で清楚で、でも自分から前に出ようとはしない。しかし自分の意思を主張する面では決して怯むことはない。そんな彼女の全ての面が好きで、一緒にいられることを光栄に思った。しかも今まで友達がいなかったと、彼女の口から「トモちゃんが初めてのお友達です」と言われた日にはあまりにも愛しく、ついきつく抱きしめてしまったのはいい思い出。とにかくあたしは誰よりも春歌を知っている自信があって、誰よりも春歌のそばにいる自信があった。



「それでその時に一十木くんと翔くんが――」




普段はあまり開かれることのない彼女の口から、幾つもの人の名前が挙げられる。そしてあたしはいい親友を演じるべく、うんうんと頷いて相槌を打っていた。春歌には才能がある。それはあたしも重々承知で、あたしみたいな人間とパートナーを組むには勿体なかった。本当は組みたくてしょうがないくらいだったけど、涙をのんであたしはそれを音也たちに譲った。彼らならきっと春歌の才能を最大限に引き出してくれるだろうし、春歌を悲しませるような状況も作らない。だからこそ最善の選択だったとばかりに思っていたけれど、甘かったらしい。



「本当におかしかったんですよ〜」
「そっかぁ……あたしも見たかったなあー」



一番辛い目に合うのはあたしだった。あたしは春歌と同室、だから過ごす時間は誰よりも長いものだと信じていたのだけど、違った。歌の練習には時間はかかるし、あれだけの人数がいるのだから、まとめる方だって大変なはず。音也たちの話を笑顔でしてくる春歌を見るのが辛い、なんていうのは、さすがに甘えすぎなのかな。つい黙り込んでいると、春歌が不思議そうな顔であたしの顔を覗き込んでくる。そしてあたしはそれに気づかず、不意に近い位置にあった春歌の顔をに驚いて変な声をあげてしまった。



「は、は、春歌!?」
「トモちゃん、さっきからぼーっとしてます…どうしたんですか?」



具合が悪いですかと不安そうに聞いて来る春歌を見て、罪悪感さえも覚えてしまう。ごめんね春歌、違うの。あたしは親友ぶって調子に乗ってるくせに、春歌から違う人の名前がでると、そんなことにも嫉妬しちゃうんだ。なんて、そんなことが言えたらどんなに楽だろう。あたしはそう自重気味に思い、なんでもないよと返す。けれど春歌は一向に心配そうな顔をしていて、つい口が滑ってしまった。



「春歌さ、さっきから音也たちの話ばっかりだね」



ハッとした時には遅く、唖然とした表情の春歌があたしを見ていた。とうとうやってしまった。あたしはそんな、自分への嫌悪感でいっぱいになって、消えてしまいたいほどだった。顔も心なしか熱くなっていく。ああでも、今の発言だけだったら天然な春歌はあたしの気持ちに気付くことはないかもしれない。そんな淡い期待を持つものの、あたしの想像以上に彼女は聡かった。



「トモちゃん、それは……嫉妬、ですか?」
「ッ…………」



じわじわと赤くなるあたしの顔を見て、春歌が黙り込む。もしかして引かれてしまったのかな。大体一般的に考えて、あたしたちくらいの年頃の女子が男の名前を口にするくらいなんてことないはず。なのに、あたしはバカみたいに気にして、嫉妬して、最後には大切な人も失ってしまう。やっぱり全部あたしがいけなかったんだ。そう泣きそうになりながら思うと、唐突に後ろから手が伸びてきて、春歌があたしを抱きしめていた。



「………春歌?」
「嬉しいです。トモちゃんがわたしのことで、嫉妬してくれていたなんて」



そうにっこり笑う彼女を見て、あたしは何も言うことができなかった。それはつまり、春歌もあたしと同じ心境だったと思っていいのだろうか。それとも、やっぱり友好関係の少ない彼女は、一般的な考えとは遠い、何か独断的な考えで判断しているのだろうか。どっちにしろあたしはそう笑う彼女に対して、あんたもなかなかやるのねと笑って見せるのだった。




111017
胸に溜まる甘い哀情


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