学校の帰り道、俺はトキヤと一緒に寮までの道のりを歩いていた。ぎゅっと手を繋ぐと、トキヤは驚いたように俺の顔を見てきた。そんなトキヤににっこりと微笑み返せば、ぎゅっと手を握り返してくれる。世間一般でいう恋人繋ぎという手の繋ぎ方は、お互いの手が密着して、重なりあって体温なんかもダイレクトに感じることができる。それ故にトキヤの体温が如何に低いか、俺の体温が如何に高いか、そんな些細なことさえも改めて実感する。
隣を見れば、きょろきょろと挙動不審にトキヤが周りを見ている。だけどそれもそうだ。早乙女学園は恋愛禁止だし、そもそも俺たちが帰り道にこうして手を繋いで帰っている光景も、見様によっては恋人同士だと言うことを悟られかねない。それでもやっぱり手を繋ぎたくなるのは、俺の堪え性がないせいなんだろうか。なんて、そんなことを思う。


「そういえばねトキヤ、今日マサと那月と購買にメロンパン買いに行ったんだ」
「はい」


途絶えていた会話を復活させるべく、俺が今日クラスであったことを話し始める。メロンパンがすごく美味しかっただとか次は一緒にトキヤも行こうねだとか、限り無く日常的な会話。だけどトキヤはそれを笑って聞いてくれて、トキヤ自身も会話を弾ませるときもあった。
そうして一段落ついて、また黙り込んでしまう。無意識に繋いだままの手を見ると、トキヤがその力を緩めていた。もちろん緩めるだけじゃなくて、顔を見るとどうしてか赤くなっていた。


「トキヤ、顔赤くなってる」
「あ……あの、これは……」
「なあに?」


にっこり笑ってそういえば、しどろもどろとしていたトキヤも覚悟を決めたように項垂れていた。


「……手、繋ぐのって、恥ずかしいですね」


顔を赤くしながらそう答えるトキヤがあまりに可愛らしくて、くすくすと笑い声を漏らすと、なんで笑うんですかと再び顔を赤くしていた。


「ううん、やっぱりそうだよなーって思った」


口ではそう言うものの、繋ぐ手の力を強めれば、トキヤは一層顔を赤くするものの、少しだけ俺の顔を見て笑っていた。


「会話、続かないね」
「……そうですね」


そう笑うと、トキヤも素直に言葉を返してくれた。ストレートな言葉を言うのは、隠そうとする気がないからじゃない。トキヤはそのままの俺の言葉を受け止めてくれるって、わかってるから。手を繋ぐっていう、恋人じゃなくても出来るであろうその行為が、付き合い始めたばかりの俺たちにとっては精一杯の恋人らしいことだったりする。だから少しでも長く繋いでいたいと思って、いつもと同じ寮への道をゆっくり歩いてみたりもする。そしてそれを悟ってくれたのか、トキヤも少しだけゆっくりと歩いてくれていた。
小刻みに会話を挟みつつ、寮まであと少しというところで顔をあげるとトキヤと目が合った。反射的に俺も少しだけ顔が熱くなるものの、二人して笑顔を浮かべているのだった。そうして寮に着くと、トキヤがカバンから鍵を取り出してドアを開ける。ドアが開いた矢先に俺は部屋に駆け込み、くるりとトキヤの方に向き直していった。


「おかえりトキヤ、ただいまトキヤ!!」
「ただいま……と、おかえりなさい音也」


こんなやり取りも俺たちにとっては習慣染みているものだったりする。最も、これは付き合うずっと前からしていることだから、今これをすると、気が早いところの新婚さんって感じがして気恥ずかしい。でも嫌にはならない。むしろやっぱりこの時間が心地よくて、ずっと続けばいいなんて思っていた。




111014
ゆるりと解けていく心


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