「翔ちゃん、翔ちゃん」
「んー……なんだよぉ……」



恐らく朝、珍しく俺より先に起きたらしい那月が俺の体を揺さぶってきた。眠い目を擦って那月の方に視線を向けると、そこには驚くべき光景が広がっていた。



「さッ………砂月……!?」
「あ?」
「よくわからないんですけど、朝起きたらさっちゃんが居たんですよ〜」



俺の反応を確認したあと、にこにこと笑顔を浮かべて説明をいれる那月。そしてなぜいるのかよくわからないけど、いつも以上に不機嫌そうな表情の砂月。寝起きというのもあるけど、正直何が何だかさっぱりだった。とりあえずひとつわかることがあるとすれば、俺は今非常に危険な立場にいるというか…今後の俺の生命を左右しかねない状況と隣り合わせしているということは黙認できた。



「まあとりあえず…1日は様子見でもしてみっかぁ」
「はい。僕はさっちゃんと居られるのは嬉しいですから構いませんよ〜」
「俺は別に………」



着替えやら朝御飯やらを済ませ、一通り落ち着いてから俺はそう言った。勿論ごく自然とそれらの行動に砂月が混ざっているのもあり、もしかしてこれは夢なんじゃないかと錯覚したものの、直後に砂月が俺の頬を引っ張った際の激痛を感じ、現実なんだと改めて確認した。しかし1日経てば消えるんじゃないかと、そんな考え横切った。大概本のストーリーにしたって1日で消えるのが妥当のセオリーだし、そのくらいなら我慢できる範囲だと思ったからだ。現実は小説より奇なりとは言うけれど、今こうして身を持って体感してしまうとそうとしか言いようがないなと思った。


「おいチビ」
「ん、なんだよ」
「ここ、乗っかれ」
「はあ!?」


ベッドに座って作詞をしていたのか、砂月の指差したところは砂月の足の上だった。那月にそんなの言われるのは日常茶飯事だと思っていたけれど、こうして砂月に言われると自分の順応性を恐ろしく思った。


「一応聞くけど……なんで俺がそこに座る?」
「はあ?なんとなくに決まってんだろ」


そんな態度をとる砂月をぶん殴ってやりたい気分だけど、そんなことをすれば俺自身の生命が危うい。深呼吸をした後、渋々砂月の足の上に座った。感覚自体は那月の時とそう大差無い、が、威圧感というかとにかく行動一つ一つをする度にひやひやする。率直な話で砂月超怖い。


「こ、これで満足かよ…」
「ああ」


じっと座ったまま黙り込むと、砂月は再び作詞を始めているようだった。紙とシャーペンの音だけのしんみりとした部屋に、不意に大声が入った。


「さっちゃんばっかりずるいです!!僕も翔ちゃんのことぎゅーってしたいです!」
「ばっ、那月おま……いってええぇ?!」
「黙れ。那月がお前に抱き着きたいっていってんだろ」


那月の言葉を聞き、いつもと同じくして拒否の言葉を述べようとすると、後ろから手が伸びてきて俺の頭をぐっと強い力で押さえつけてきた。勿論犯人は砂月な訳で、痛みで涙目になりかけた。んな理不尽なことがあってたまるか!!内心はそう腹を立てまくっていた。しかし視線を動かすと、俺の代わりかぬいぐるみを抱き締めて何かを訴えるような視線で俺を見てくる那月。そして黙って従えと言わんばかりの空気を出している砂月。ここで俺がすべてを投げ出して音也の部屋に逃げるなんて手もあるのだけど、無論俺はそんなことをするほど身の程知らずではない。仕方ないと覚悟を決めた。


「那月、来てもいいぞ」
「でも……翔ちゃんが」
「あー!いいからさっさと来ればいいだろ!」


ばっと手を開いて、半場自棄になってそう言えば、那月はぱあああっと表情を明るくして俺に抱き着いてきた。鳩尾に入って一瞬咳き込むものの、そんなのお構い無しの那月は抱き締める力を一層強くしてきた。そして俺を載せているだけだった砂月まで、なぜか俺をぎゅっと抱き締めていた。


「おま…えら…っ、く、くるし…っ!!つか…マジいってぇ……!死ぬ……!」
「わわ、ごめんね翔ちゃん」
「ハッ、軟弱だな」


ぱっと体を離してそう謝る那月、俺を鼻で笑う砂月、そしてマジで死ぬかと思うほどの痛みから解放された俺。げほけほと咳き込む中で、なんで俺こんなことしなきゃならないんだろうと一瞬客観的な目線でことを考えてしまった。とりあえず早いところ二人のあしらい方を身に付けないと、俺は今日が命日になるような気がした。
ちらりと時計を見ればまだ昼過ぎ。起きた時間が少しばかり早めだったこともあり、1日の終わりとはまだまだ程遠かった。あと数十時間も二人の相手をして、二人に振り回されなくてはならないと思うと、いつもなら短く思える休日の午後がひどく長いものに感じられた。




111011
笑顔の先に落とし穴


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