俺とトキヤは恋人同士だ。身分はまだ学生だけど、一緒に住んでいることもあるから、もしかしたらそれ以上の関係と言ってもいいかもしれない。告白は俺からしたもので、あの日のことは鮮明に覚えている。いつものように学校が終わって、二人で部屋でのんびりとしているとき、好きだから付き合ってほしいと真面目な顔で言った。そして明らかにトキヤはきょとんとした顔で俺を見ていた。しかしその数秒後、意味を理解したのか真っ赤な顔のトキヤが無理ですと全面否定をしてきた。どうしてと問えば、私たちは男同士で〜とかなんとか長ったらしい理屈を述べたり、一般論の話を始めたりした。トキヤはどうなのかと聞けば、私は…と言いづらそうな顔をしていた。その後、やっぱり無理だよねと笑い、この話題を遠ざけるべく別の話題を持ち出そうとすると、待ってくださいとトキヤが声を張り上げ、俺の手を掴んだ。
別にあなたを嫌ってるわけじゃありません、そう下を向きながら言っていた。そんな必死な姿が愛しくて、捕まれた手を引いて抱き締めてしまった。無理しなくていいよと笑えば、違うんですとトキヤが泣きそうな顔をする。どうしたらいいのかわからなくなって困っていると、不意にトキヤが言った。



『あなたのことはむしろ好きです。だけど、この学校ではそれが許されないんです』



ずっと欲しかったその言葉が嬉しくて、頬に軽くキスをすると、かあああっと一瞬でトキヤは顔を赤くしていた。離してくださいと言われ、強引に腕の中を抜けたトキヤがぶつぶつと何かを呟いている中、絶対に誰にもばれない自信があるからと嬉々として言うと、少し疑り深そうな顔をした後、トキヤはそれを承諾してくれた。まさに驚愕の一日、って感じの日だったなあと、今なら能天気に思い返すことができる。



「音也、聞いてるんですか?」
「え、ああ、なに?」



これが現実かと一瞬思ってしまった。色んなことを思い起こしていてついボーッとしていたらしく、俺の前に立っているトキヤは腕を組ながら溜め息を吐いていた。



「まったく……、何度同じことを言わせる気ですか……?学園内で抱き着くなと言っているんです」
「あー……はい」



無意識のうちに正座をしていたのか、前に立っているトキヤはいつも以上の威圧感を出しているように思えた。キッとしたトキヤの目線に耐えきれず、視線を逸らしてしまった。学園内で抱き着くなと言われても、恋人が目の前にいたら、それは無意識のうちに抱き着いたりしたくなるもんじゃないのかと思う。もっと慎みなさいとトキヤに毎回怒られるものの、ごめんねと謝ると、トキヤは何とも言えない顔をして俺を許してくれる。まあ俺もそれに甘えて、何度も同じことを繰り返す訳だけど。



「で、でもさ…恋人が目の前にいるんだよ?」
「辛抱なさい。部屋に来たらいくらでもさせてあげます」
「うっそだぁ〜。暑苦しいから離れなさいっていつも言うくせに」
「それとこれとは別です」



とにかくこれ以上はやめなさいとトキヤにきつーく怒られた。部屋の中ならいくらでも相手をしますという、そんな条件を真に受けていたこともあるけど。



「じゃあトキヤ、今日は一緒に寝ようよ!」
「…………なぜです」
「部屋の中ならいくらべたべたしても怒らないんでしょ?これくらいは譲歩してよ!」



ね?と首を傾げて言えば、言葉に詰まったような顔をした後に、勝手にしてくださいとトキヤは言った。結局のところ、トキヤはやっぱり優しい。自分のベッドから枕を持ってトキヤのベッドに入る。やっぱり男二人ともなれば狭いけど、これくらいくっついてる方が俺としては嬉しかった。それにトキヤの髪の毛から俺と同じシャンプーの匂いがして、思わず嬉しくなって笑ってしまった。



「な、なに笑ってるんですか」
「やっぱり俺トキヤのこと好きだなあって思っただけ!」
「……寝言は寝て言いなさい」



本当に幸せなんだよと言えば、わかってますよとトキヤが言い返す。そっぽを向かれていてよくは見えないけど、トキヤの耳が赤くなっているのがわかった。ぎゅっと手を繋ぐと、やめなさいというトキヤの声はなく、むしろ握り返してくれた。それがまた嬉しくて、明日はもう少しだけ学校でのスキンシップは自重しようと心に誓った。




110925
温もりの優しさ


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テーマ「人外ファンタジー」
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