「今日はここ、あの有名な早乙女学園に取材に来ていまーっす!」


我ながら馬鹿馬鹿しく思う。HAYATOを演じることはもう慣れてきたと思っていたのに、こうしていざ演じる自分を客観的に見てしまえば本当に愚かしく思うのだ。
私は今、HAYATOの仕事で早乙女学園の取材に来ている。カメラマンに囲まれ、物珍しい視線の生徒に見られ、プロデューサーにあれこれと指示を出される。これらすべてを鵜呑みにしたままに、あと何時間経てば一ノ瀬トキヤに戻れるのだろう、早く歌を歌いたい、そんなことをうっすらと思いながら、私は仕事をしていた。




「じゃあ次は〜レッスンルームの方を見ていきたいと思いまーっす!」


書かれた台本の内容を思い出しながら、レッスンルームの説明を度々入れながらドアを開ける。ここに生徒はいないはずだから、確か私がきちんとした説明を――と、そう思ってカメラマンに向き合った瞬間だった。


「誰だ」
「っ、へ!?」


ドアを開けたとたんに手首を掴まれ、そのまま中に引きずり込まれる。外側からはバンバンとカメラマンがドアを叩く音が聞こえ、一方の私は目の前の人物に声を震わせた。


「し、四ノ宮さん……?」
「違う、砂月だ。……レッスンルームにノックも無しに入ってくんじゃねーよ」


剣幕な雰囲気を纏っている四ノ宮さん、否砂月さんは確かに眼鏡が外れていた。そしてはっと素に戻っていた自分を、すぐにHAYATOに戻すべく、不自然なほどに笑顔を浮かべた。


「あははは、ごめんにゃ。まさか中に人がいるだなんて」
「………HAYATOか、お前」
「そうだにゃあ!さっちゃんも僕のこと、知ってたんだね〜嬉しいにゃ」


砂月さんのような人種にたいしてこんなふうにHAYATOを見せるのは初めてで、思わず笑顔がひきつりそうになる。早くこの場から立ち去らなければ、そんな危険信号を脳裏が上げていて、私は直ぐ様ドアノブに手をかけた。しかし、再び手を砂月に掴まれた。


「なあ、あんたトキヤだろ」
「………なにいってるの?僕はHAYATOだよ!」
「そういうのいらねぇよ」


さすがの砂月さんと言うべきか、少しでも見抜かれたことにたいして狼狽えてしまう。けれどHAYATOを演じ続けると、砂月さんも少しは違和感を感じたのか、あーとかなんとか区切りの悪い声を出していた。


「トキヤ」
「っ、だから僕は!」
「好きだ」


HAYATOだよ、そんな間延びした声が出るより先に砂月さんの言葉が出た。好き?砂月さんが、私を?時が止まったようにさえ思える。しかしすぐに我に返り、かーっと顔が熱を持つのがわかった。


「あっ、あああなたはいきなりなにを……!!」
「なんだ、やっぱりトキヤだったのか」
「はっ」


カマをかけるためだけに告白なんてしたのか、私はそう思い、遊びだとわかっていたのに一瞬でも心を揺るがせてしまった自分を不甲斐なく思った。からかわないでほしいにゃあ、そう言い残し、今度こそレッスンルームから出ようとする。すると今度はどこも触られず、しかし声だけは確実に聞き届くように言われた。


「冗談ではないからな」


そんな言葉が聞こえた瞬間、少し驚く。私と砂月さんの接点など少ないはずなのに、なぜ彼はああも私を理解したような口を利いていたのだろうかと。レッスンルームを出た私を見たプロデューサーやカメラマンは、心配そうに私を見た。何かあったの、とか、そんなありきたりな言葉ばかり。


「なかに……生徒の子がいて話し込んでただけだにゃあ」


そう笑うと、プロデューサーたちもHAYATOはこれだからといった具合に笑っていた。あと何時間経てば一ノ瀬トキヤに戻ってしまうのだろう、砂月さんにあんなことを言われてしまった今となっては、HAYATOの方が何千倍も気が楽に思えた。









▼小夜さんお待たせしました!事実上初めて書く砂トキとなってしまいました…さっちゃんのしゃべり方がすごく安定していなくて申し訳ないです(;▽;)よい大晦日をお過ごしくださいませ!




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