「―――っ、どうしてあなたはいつもそうなんですか!!」

 そうトキヤは叫ぶと、俺のことをベッドに押し倒した。見下ろす双鉾には、今にも溢れそうなほど涙の膜が張っていた。
 わかってる、全部俺が悪いなんてことは。だけど好きだから、こんなことをしていた。トキヤという恋人がいながら、好きでもない女の子と遊んだり、わざと目の前でトキヤの知らない人物の話を持ち掛けたり。
そしてトキヤが人一倍嫉妬心が強いというのも知ってる。本当なら俺のことを外に出さずに閉じ込めておきたいと、そう思ってることも知ってる。知ってる上で俺はそういうことをしてるのは、いわゆる愛情の裏返しってやつ。

「ごめんね、トキヤ」
「……うるさいです、少し黙りなさい」
「おおっと……」

ギチギチッという、擬音にし難い音を立てながらトキヤがカッターの刃を出した。ごくんと生唾を飲み込み、トキヤの言葉に耳を傾ける。

「言いましたよね?必要最低限の交遊しか認めない、と」
「言ってたね」
「私は渋々承諾してあげました。なのにあなたは、どうなんですか?」

先ほどまで涙をぼろぼろ溢していたかと思えば、今度は無感情な瞳で俺を見ている。ああ、これが情緒不安定ってやつか、なんて思いながら、真面目そうなトキヤに俺は間延びした声で返した。

「だけど俺にとってはあのくらいが必要最低限の交遊ラインなんだけど」
「知らない女性と夜な夜な遊ばれている恋人を持つ私の気持ちも考えてください」
「別にいいじゃん、やらしいことしてるわけじゃないし」
「…………」

無言のまま、トキヤが俺の首筋にカッターを刃を当て、ごくんと生唾を飲み込む。実際のところ、俺だって好きでもない人を抱くような奴じゃないし、何よりトキヤが嫉妬する様子を見るのが好きだから、そのためもある。
人間の感情で最も深くなるのは厭悪の感情とか、嫉妬心だと俺は思う。愛情は時間が経てば薄れていくもの、だけど厭悪の気持ちは早々消えるものではない。むしろ時間が経てば経つほど深まるものであって、だからこそ愛する人に憎んでほしいなんて言うのはやっぱり、自分の気が違っているのか。

「そのまま切って、俺のこと殺してもいいよ?」
「え………」
「そしたら俺はトキヤだけのものになるよ」
「………っ」

切れないなら俺が切るけど。そう言ってトキヤの手に自分の手を重ねると、やめてくださいと大きな声を張り上げられた。トキヤの双眸には再び涙の膜ができていて、今にも溢れそうな程に張り詰めているようだった。
今のトキヤは多分、俺のことが殺したいくらい憎いのは違いないと思う。自惚れとかじゃない、一般論として、自分の恋人が自分以外の異性と遊び歩いてたら、普通に考えて憎いと思うものだと思う。まあだからわざとやってるんだけど。
でもそれっていうのはつまり、今のトキヤは俺だけのことしか考えてない、俺だけのことで頭が一杯になってる。そう思うだけで悦びさえ覚えるほどだ。

「……………すみません、頭に血が上ってたようです」
「あ、そう?」

意外にもあっさりトキヤは俺の上を退くと、震える手付きでカッターの刃を仕舞っていた。
トキヤの慣れない手付きであの刃が自分に刺されたら、どんな感覚なんだろう。ぞくぞくするような気分に支配されながら、俺はトキヤを優しく抱き締めた。

「ごめんねトキヤ、ひどいこといっぱいして」
「……それは私もです」
「だけどねトキヤ、俺は本当に君の手で殺められることを望んでる」

それを聞き入れると、トキヤは驚いたように体をびくんと動かした。そして強く握り締めていたカッターが手から滑り落ち、カシャンと音を立てて床に落ちる。
それを見つめ、思い詰めたような顔をしているトキヤを再び抱き締めると、俺は優しく微笑んでキスをした。


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