>アイマスパロとか



『まだ……歌いたかったです……』


そんな彼の言葉が、頭の中で淡々と鳴り響いていた。泣きそうな顔でそう言い残すと、トキヤはプロデューサーに病院へと連れていかれた。
事情を知らなかった事務所のメンバーは全員黙り込んでいた。誰よりも才能のあった彼が居なくなったことを喜んでいるのだろうか?それとも自分には関係ないと、冷たく割り切っているのだろうか。
全てをトキヤ自身に話されていた俺はといえば、ただ立ち尽くすことしかできなかった。あの彼が、誰よりも歌に高慢だったトキヤは、歌が人生と言っても過言ではなかったはずだ。

恐らくトキヤはもう二度と事務所には帰ってこない。きっとトキヤのことだから、誰にも何も言わずに一人でいろんなことを塞ぎ込んで、人が心配してあげてもそれを鬱陶しく扱うことだろう。


「一ノ瀬さ、もう二度と言葉を発せないわけじゃないんだろ?」
「………でも歌は歌えないよ」
「話せるだけマシじゃないか」


俺とトキヤが何度もデュエットしていることを知っている一人が、俺の肩に手をおきながらそう言った。きっとあいつは俺を慰めているつもりだ、大切な相方を失って落ち込んでいる友人を。

でも違う。俺はそういうことを言っているんじゃなくて、歌を生き甲斐にしてきた彼が、歌のない生活をしていけるわけがないということを言いたいんだ。
放っていたいたら自殺でもしかねないと、そういい放てば、一ノ瀬だってそこまで弱くないだろうと笑われた。


「俺、今日で事務所やめます」
「は?」
「今までありがとうございました」
「お、おい!!」


そのまま俺は走りだし、事務所を飛び出した。トキヤが向かった病院へ向かう途中に、携帯のデータを殆ど消したり、自分のアドレスを変えたりと色んなことを徹底していた。
あいつ以外にも俺とトキヤの心配をしてくれたやつはいた。だけど全員が全員、何も理解してはいなかった。一ノ瀬トキヤという存在の儚さも、俺の思っていることも。

今から病院に行って、トキヤの主治医さんに必死に声のことを言っても、トキヤが歌が歌える日は来ないだろう。ならせめて、俺も彼と同じ状況に居ようと思った。
歌がない生活も、彼の弱さも、全部俺も一緒に受け止めてあげよう。そんなことを浅ましいことを思いながら、俺は病院に逸早く着くようにと走る速度をあげた。

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