「初めは本当に、あんたが憎くて憎くて仕方なかったんだ」

 憎さ余って可愛さなんとか。とは言ったもので、俺から家族を奪ったフリーダムのパイロット、キラ・ヤマトは絵に描いたような純真な人間であった。
 こいつが俺の家族を殺した、すべてを奪った、そんな張本人。そう思えば思うほど自分の中に整理しきれない感情が沸き上がり、衝動を堪えるので必死だった。早く上官から命令が下れば、そんなことを毎日考えていた気がする。

「それは……仕方ないよ。僕が君の家族を殺したのに違いはないから」

 彼には彼なりの理由があったのも、不可抗力であったこともわかっている。他人事であってもこんなふうに非を詫びるキラさんは、知れば知るほど憎めない存在だった。

「でも不思議だよ、あんな戦争が嘘みたいに思える」

 戦争が終わってから幾つもの時間が経っていた。徐々に幸せな時間を取り戻しつつある世界の中で、俺とキラさんという存在もそれなりに情緒を保っていた。
 最初はやたらとアスランのヤツが邪魔ばかりしてきたけれど、キラさんに嫌いになるよと頬を膨らまされるとぶつぶつと愚痴をいいながら帰っていくのだ。そしてキラさんの隣でべっと舌を出して見せると、それはそれは悔しそうな顔をしていた。まあ、これくらいはやらないとなと思いながら、俺もそれを楽しんでいた。

「そうだね。シンくん、ほんとに僕になついてくれた」

 お兄ちゃんになれた気がして嬉しいよ、キラさんはそう幼げに笑っていた。キラさんと一緒に居始めて気付いたのだけど、この人はきれいに笑う人なんだと思った。今までは歪んだ表情ばかりだったせいで、余計にそんな表情が栄えて見えた。ただ思うところがあれば、今までこの笑顔をアスランが独占していたのだと思うと腹立たしい。

「それは俺のこと、弟みたいだって言いたいのか?」

 少し低めの、不機嫌さを表すような声でそう言うと、キラさんはそれを気にかけることなくうんっと明るく微笑んだ。
 そんな返事に呆れるようにため息を吐き、冷めきったコーヒーに手を伸ばす。そんな俺の様子を見て、キラさんもあ、と気付くように自分のコーヒーに手を伸ばした。

「……………なあ、あんたのそれ、なに?」
「え?シンくんの飲んでるものとおんなじコーヒーだよ?」

 こてん、と首を傾げながらそうキラさんはいった。そうは言われても、とても同じものとは思えなかった。俺のコーヒーとは一変し、キラさんのコーヒーはどうしたらこうなるのかといった具合に茶色くなっていた。
 コーヒーというよりはカフェオレといったところだろう。まさか、さっき向こうでこそこそとなにかを入れていたのは大量のミルクだったり砂糖だったりしたのだろうか。

「キラさんは、甘党?」
「うんっ、甘いものはだーい好きだよ!」

 にこにこと無邪気な笑顔を浮かべながらカップを持つキラさんを見て、そんなコーヒーに失礼なことをするなと誰が怒れたものだろうか。アスランがああもキラさんの前では骨抜きにされるのも、今ではなんとなく理解し得る。

「キラさん、誕生日は?」
「誕生日はー…えーと、五月十八日。シンくんは?」
「俺は九月一日。じゃあ趣味」
「プログラミングだけど……どうしたのいきなり?」


 目を白黒させながら、困惑するようにキラさんはそう言った。それでも答えるの律儀というか、彼らしいと言えば彼らしい。そんな可愛らしい様子を見てくつくつと笑いを堪えると、コップを置いてキラさんに言った。

「俺さ、知りたいんだ、キラさんのことを」

 戦い方だとか、弱味だとか、そんなどうでもいいことはもう知りたくない。俺がこんなにも人懐っこく優しいキラさんを憎んでいたのは、お互いを知らなかっただと思っている。だから今は知っていて当然な、そんなこと当たり前なことを、キラさんの色んなことが知りたかった。

「じゃあー…シンくんのもしっかり教えてね!」

もちろんと微笑めば、こちらこそとキラさんは笑っていた。


0117 朝と夜が出会いました
(知りたいことがたくさんあるんです)








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