「どうして僕らは双子なんだろうね」


双生児、という言葉の意味の重みを調べるべく辞書を開いた僕は、そう吐き捨てて辞書を閉じた。そんな姿を見た弟はそうですねと呟き、愛読書の本へと視線を戻す。
僕と弟はどこまでも正反対だと言われてきた。好きなもの、性格、外見はそれ相応に似ているのだけど、柔和に笑顔を浮かべる僕と、いつも眉間にシワを寄せている弟では、ぱっと見で似ていると答える人は少なかった。そして実際のところはと言えば、皮肉なほどに僕らは似たり寄ったりだった。喜びも悲しみも弱いところも、すべてが同じだった。でもそれを知ったのは最近の話。それまでは“自分達は正反対”という、言われるがままのすべてを鵜呑みにしてきたからだ。あの日、双子という関係を捨てた瞬間にも、僕らは改めて同じ二人の人間なんだと実感させられた。その罪悪感はひどいものだった、吐き気がした、苦しかった。もしも双子でなければ、と考えたこともあったけれど、別に両親に文句をいう気はない。それに恋愛には障害があった方が燃えるとかなんとか、まあ暑苦しいのは嫌いだけど。


「あーあ…トキヤが早乙女学園行っちゃうの寂しいにゃあ」
「仕方ないですよ、合格したんですから」


本来なら兄として嬉々とすべき出来事だ。いつも僕の後ろをひよこのように着いてきていた弟は、とうとうアイドルという仕事でさえも私を追いかけてきた。嫌な気持ちなんてない、それに、昔からの約束だった。いつか一緒にステージでうたを歌おうというのが。


「でーもー恋人と離れちゃうのは寂しいにゃあ」
「それは――……って、誰が恋人ですか!」


何かをいいかけたトキヤはそう言うと、読んでいた本をバンッと閉じた。


「え?僕ら恋人でしょ?」
「あくまで双子です!変なこと言わないでください!」


全くあなたは…などとぶつぶつ言っていたトキヤを見て、思わずくすくすと笑いが込み上げた。確かに僕らは双子だ。でも、一般の双子だったらキスもしない、セックスもしない、それが当たり前。だってそれらはキンシンソーカンという罪に当たる。けれど熟おかしな話だと思う、愛し合っていて、それが偶々兄弟だっただけという話なのに、罪になってしまうのだから。
確かに今までのトキヤとの行為は僕の一方的なものかもしれない、昔からこれは双子として普通の行為だと嘘の常識を吹き込んできた偶然の産物かもしれない。だけど本当に嫌なら、それこそ拒むはずだ。けれどトキヤは拒まない、これがどういうことかって言えば、そういうことだ。


「………ねえトキヤ」
「はい?」
「浮気しないでよ」


ぷくっと頬を膨らませて、テレビの中の自分のようにわざと幼げな表情をすると、トキヤは笑いながらはいはいと僕の頭を撫でた。


「ハヤトこそ私がいないからって、無差別に女性を引っ掛けるんじゃありませんよ」
「そっ、そんなこと!!」


絶対にしないよと言おうとすれば、おやすみなさいとトキヤに軽くキスをされた。寝室へと向かうトキヤの後ろ姿を眺めながら、一向にむすっとした表情を僕はしていた。トキヤだけなのに、こんなことするのは。
カレンダーをみてため息をつく。あと数週間後には、トキヤにこんなふうにおやすみのキスをされることもなくなるんだ。そう思うと寂しい。そして何より、一番心配なのは、やっぱり恋愛面だった。小学校中学校と一緒だったけれど、僕はこれからはアイドル活動、トキヤは早乙女学園の生徒として別の道を歩まなくてはならない。トキヤはああ見えて、というか見た目通りにモテる。中学時代はラブレターなんかがよく届いてて、その度に興味がないと言っていた。クラスを覗けば、大概トキヤは本を読んでいたものの、クラスの女の子に絡まれているときもあった。あの子達はきっとトキヤに好意を寄せているんだろうなあと、可哀想にと思いながらトキヤの元に駆け寄ったのも懐かしい思い出だ。目の前でトキヤに抱きついて見せて、勝ち誇った笑顔を浮かべるのも嫌いじゃなかった。けれどこれからは、そんなふうにトキヤを僕のものだと見せつけることもできない。寮に入ってしまうから、顔を会わせることも、会話も出来なくなってしまう。ずっと僕が守ってきたトキヤは、意外と世間知らずというか、常識がずれていることも多い。友達の概念も知らないし、それを良い様にされてトキヤの傷つく姿は見たくない。
双子だなんだと口を出すレベルじゃないと、そう言われるかもしれない。でも違うんだ、僕とトキヤは恋人同士なんだからこれは言わば、当然のこと。ただ恋人を独占したいという、そういう意思だ。


「だいじょーぶだよ、トキヤ」


何が何でもトキヤは絶対に、僕が守るからね。



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