大好きですと、寝ている音也に私は小声でそういうつもりだった。しかし私の声は予想以上に大きなものにってしまい、反射的にぱっと音也から離れるものの、寝ている音也は唸り声を出しながら眉を潜めていた。 「…………はぁ」 起こさなくてよかった、私はそう思った。先日音也に私がHAYATOだと言うことを告発した。音也は特に驚く様子もなく、かといって私を卑下するようなことも言わずに、やっぱりそうだったんだねと笑っていた。 事実を知ってからというもの、私の帰りがどんなに遅くなっても、仕事で疲れてるんだからという理由で音也は私のことを待っていることが多かった。私が帰ると、決まって笑いながらおかえりといってくれた。しかし最近は仕事が多忙になり、帰る時間も徐々に遅くなっていった。 今日みたいに音也が先に寝ている日も少なくはない。けれど机の上にある本やCDを見ると、結構な時間私を待ってくれていたんだということがわかって申し訳なくなると同時に、不謹慎にも嬉しいなどと思ってしまう。あまり夜に強い方ではない可愛い恋人が、自分のために起きていようと頑張っていたんだと。 「あれ……トキヤ……?」 「あ、音也……すいません、起こしてしまいましたか?」 「んーん、いいのー…」 一通り落ち着き、あとは寝るだけになった時に不意に音也の声がして、そちらを見るとやっぱり音也がベッドから身を起こして目元を擦っていた。口調といい、物言いといい、完全に寝惚けていると確信すると、もう寝ますからと言おうとすると、ベッドから立ち上がった音也が私のところまで来た。 「トキヤ、今日もお疲れさまー。あとおかえりなさい〜」 ぎゅっと私に抱き着きながらそう言ってくる音也。寝惚けているのか本気なのか、残念ながら真偽はよくわからないけど、とにかく嬉しかった。 「……ありがとうございます」 「いいの、トキヤだって疲れてるんだから」 「それはあなただってそうでしょう?……ほら、もう寝ますよ」 音也を優しく引き離し、自分のベッドに帰るように諭すと、暫く考えるような仕草をした後にいやだと答えた。なんでですかと呆れたように問えば、ここで寝かせてよと言って否応なしに私のベッドに潜り込んできた。そしてそれを制する間も無く音也の寝息が聞こえ、再びため息をついた。 今度こそ音也を起こさないようにベッドに入ると、ありがとうございますと小声でいい、大好きですと言った。 「………………トキヤ」 「っ、お、起きてた……んですか……?」 「なんでいつもさ、好きだーって起きてるときに言ってくれないの?」 ベッドは元々一人用であって、男が二人一緒に寝るにはあまり有余のないサイズだった。そのおかげで私と音也の距離感はものすごく近く、思わず息を飲んだ。というか起きていたのかと、そんなことを再確認する間も無く、なんでよと音也が可愛く口を尖らせながら言っていた。そんな姿に思わずきゅんとするものの、今は答えることに専念しなければと振り切った。 「そ、それは………」 「それは?」 「…………察しなさい」 「えぇーー!?」 そう答えて背を向けると、なんでなんでと音也がしつこいほど聞いてきた。とりあえずすべて無視していると、次第に音也は静になり、暴れることもなくなった。 言えるわけがない。単調に恥ずかしいからという、そんな理由を彼に。そしてもう一つ、きっと彼は気づいていないけれど、私が好きだというと、音也は顔を真っ赤にして、けれど嬉しそうな顔をしながら俺もと答えることを。そしてその姿はとてつもなく可愛く、私にとってはすぐに手を出したくなるような、それほど愛しい姿だった。 そんなことを悶々と考えていると、左手をぎゅっと音也に握られた。手を握るくらいなら平気かと、自分の中で示しをつけると、おやすみなさいと背を向けたまま音也に告げた。 110920 糖分不足注意報 |