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イナズマイレブン
疎外から疎外された男


 忘れもしない、小学三年生の時。悪意の有無なんて今も分からない。けれど子供のいうのは無垢で無邪気で残酷だ。自分と違うものに対する反応は、時に大人以上に激しい。
 桃色の髪、青とも緑ともつかない目、同級生と比べ高い声、女のような顔立ち。
 それらが子供にとって異質なものであったことは、言うまでもない。だから少しでも周りに溶け込もうと努力した。髪は短くした。言葉遣いも荒くした。それでもやはり、どうしようもなく、俺は違っていた。
 どれだけ男らしくあろうとしてもあの時の俺は所詮子供で、少しでも油断をすればすぐに涙が零れた。けれど人前でそんなものを見せれば余計にからかわれることは分かりきっていたから、見付からないように校舎の影でそっと息を潜めて、声を押し殺して泣いていた。
 流石に俺をわざわざ捜そうという人もなく、いつもいつも一人で静かだったそこに、ある日、誰かがやって来た。今更逃げることも隠れることも涙を隠すこともできなくて、背を向けたまま、そいつが去るのを待っていた。けれど俺から、多分七歩程離れたところで足を止めたそいつは立ち去る気配もなく、おそらく俺をじっと見つめた後で口を開いた。
「どうしてぴんくなの?」
 その形式通り純粋な疑問に聞こえるその声は、男のものだとすぐに分かった。どこかで聞いた覚えがあるような気がしたが、その時には思い出せなかった。
「ねぇ、きいてる?」
「…………生まれつき」
「へぇ」
 そうなんだ、と呟いてそいつは去っていった。滅多に人の通らないこの場所に、あいつは何をしに来たのだろうかと疎らに生えた雑草を見つめながらぼんやり考えてみたが、何も浮かばなかった。
 次の日とその次の日はそこに行かなかった。そのまた次の日、そこで泣いた。暫くして空が橙に変わってきた時、近くで足音が止まった。
「ねぇ、そこでなにをしているの?」
 この前の奴の声だった。乱暴に袖で目を擦り、俺は立ち上がって振り向いた。やはり七歩程離れたところにいたそいつには、見覚えがあった。
 濃い灰色のふんわりとした髪、茶色い目、平均的な高さの声、綺麗な顔立ち。
「しん、どう」
「え?」
「神童、だろ。お前」
「うん。神童たくと」
 どうりで聞き覚えがあったわけだと思った。金持ちであるそいつは、他の皆と違うが、俺とも違っていた。
「あおいね」そいつは再び口を開いた。
「あおくて、きれいだね」
 阿呆らしいと、とても阿呆らしいと思った。
 そいつは金持ちのお坊っちゃんだから、他人と違うことを臆することなどないのだろう。そいつは誰も疎外しないし、誰にも疎外されない。だからそんな言葉が言えるのだ。
 俺はそいつの言葉を真に受けるつもりはなかった。けれど同時に、どんな奴の言葉だって真に受ける必要などないのだと思った。本当に、それまでの自分は阿呆らしかった。
 黙ってその場から立ち去ろうとしたけれど、そいつはまた問いを口にした。
「あ、ねぇ、なまえは?」
 決して俺はそいつにほだされたわけではなく、それに答えたのは多分気紛れだったのだろう。
「霧野、蘭丸」
「きりの、きりのか」
 だからそう言って笑った神童を見て頬が緩んだのも、きっと気のせいだったに違いない。




―――――
 空気を読まないちっちゃい神童くんと達観してる霧野くんが書きたかった。

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