Chris | ナノ


「君たちにはそれぞれしばらくの間、新人の二人をサポートしてもらう。まあ言うなれば教育係のようなものだ。」
「な、」

何か言おうとした途端にウェスカーはそれを遮るように続けた。

「これは決定事項だ。ジルにはレベッカ、クリスには花子の担当についてもらう。基本的にお前たちは普段通り働いてそれを二人に教えればいい。俺からは以上だ。」

なにがどうしてこうなったんだ。

「花子・ギオネです。よろしくお願いします、サー。」
「あ、ああ…よろしく。」

さあどうしたものか。
…いつものこの時間帯の俺はトレーニング中だ。地下の射撃場でレオンと共に射撃の練習をしている。ジルもいつも通りのスケジュールで業務を教えていくようだ。
とりあえず、射撃の腕でも見てみるか?

「とりあえず、射撃場に行ってみるか。」
「はい。」


いつもは俺が一番乗りだが、今日は先客が居るようだった。

「よぉ、ジョッシュ。」
「ああ、クリス!お、そちらのレディは?」
「あぁ、新しく配属されてきた花子だ。花子、別の部署のジョッシュ・ストーンだ。」
「よろしくお願いします。」
「ああ、よろしくな。」

ジョッシュが手を差し出す。花子は一拍置いてから手を握り返した。ジョッシュは少しだけ首を傾げた。何か間違ったことをしたのか、と。

「すみません、日本にはそう言った慣習がなくて。」
「ああ、なるほどな。気にするな。」

花子がぺこり、と頭を下げた。

「ミスター・レッドフィールド、わたしは一体何をすれば…」
「クリスでいい。」
「く、クリス…さん。」

年相応、と言った感じの表情だった。あまり慣れていないのだろうか。さっきまでえらく大人びた子だと思っていたが、そんなことはなかったようだ。

「俺の場合、午前中は基本、射撃のトレーニングだ。午後からは主にデスクワークだな。」
「射撃、ですか?」
「ああ。君の担当が俺だから、多分君も同じような業務内容でいいんだと思う。もしデスクワークに重点を置くならレオンにつけるはずだからな。」

ウェスカー隊長から自分の役職は聞いているか?と問えば頷いた。

「あなたのサポート、だと言われました。」
「そうか…よろしく頼むな。じゃあ、とりあえず撃ってみるか。」


「よし、じゃあ行ってみろ。」
「はい。」

ハンドガンを手にした花子が、トリガーに指をかけた。
それを確認して、俺はマシンのスイッチを押す。射撃場には数年前からゾンビの姿をした木の人形がアトランダムに出てくる仕組みのマシンが設置されている。
これを見てレオンは少し苦い顔をしていたが、なにかあったのか?

現れるやけにリアルなゾンビの人形。それに戸惑うこともなく、銃声が射撃場に響く。

「よし、それぐらいでいい。」
「はい。」

見てみると五十体中のほとんどが頭を飛ばされていた。これはすごいな。

「すごいな。」
「あ、ありがとうございます。」
「銃の扱いは慣れてるのか?」
「…隊長に叩き込まれましたから。」
「隊長って、ウェスカーにか?」

こくり、と頷かれた。

「入隊する前はどうしてたんだ?」
「日本で暮らしていました。半年ほど前に、父…いえ、ウェスカー隊長にスカウトされてアメリカに来ました。」
「へぇ…英語が達者だな。」
「これも、叩き込まれたんです…今じゃ日本語より英語の方が得意かもしれませんね。」

おどけるように彼女は笑った。でも、なんだろうか。少しだけその笑顔に違和感を覚えた。無理をして笑っているような、そんな顔だった。
こんなとき、レオンみたいな色男ならなにかうまいことが言えるのかも知れないが生憎俺は朴念仁だ。どうすればいいのか分からない。

「そうか。これからよろしく頼むな、花子。」
「! はい!」

花子は先ほどまでと同じように堂々した態度に戻った。どうやら言葉選びは間違ってなかったようで、安心した。

「もう一セットいくか?」
「お願いします!」
「よし。」



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