Chris | ナノ


 クリスが街中で撃たれた。今、彼は街で一番大きい病院の緊急手術室で処置を受けている。手術室前の廊下の椅子に座って終わるのを待っていると、警察で事情聴取を受けていた花子が駆けつけてきた。私の姿を見つけて、ほんの少しだけ眉間の皺を和らげたが表情は硬いままだ。仕方ないことだろう、クリスは、彼女の上司は彼女を庇って撃たれたのだから。

「ジルさん!」
「花子」
「クリスさん、は」
「少し深呼吸しなさい」

 私の言葉をきちんと聞いた花子は、深く息を吸い込み、吐き出す。それから小さくすみません、と呟いた。少し落ち着いたかな、と思ったので椅子の隣をポンポンと叩くと失礼します、と隣に座った。

「クリスは大丈夫よ、命に別状は無いわ」
「そう、ですか」

 結論から告げると、彼女は一気に力が抜けたようだった。ここに来る道すがら不安で仕方なかっただろう。この子はそういう子だから。人が自分に対して起こすアクションに敏感で、感謝を忘れない。でも、その敏感さは裏を返すと彼女の脆さでもある。花子は人を気遣うのは得意だが、気遣われるのはあまり得意ではない。いつも自分なんかに申し訳ない、と困った顔をする。どうにも自分を卑下しがちなのが、彼女の短所と言えるかもしれない。
 生来生まれ持った性格かと問われれば答えはおそらくノー。入ってきたばかりのときは緊張からか態度が固かった花子だが、最近は任務外では色々な人と話しては笑っている。特に歳が近いレベッカと話している時は本当に年相応で、日々銃を持ち、バイオテロと戦っているとは考えられないくらいに。本来は明るい性格なのだろう。
 おそらく、育ってきた環境によるものだとは思うけれど、詳しい事情はよく分からない。ウェスカーとエクセラの娘らしいけど、実子ではない。その辺りかしら、と考えるが、余計な詮索はあまりするものじゃない。不躾だ。
 ただね、花子。自分なんか、なんて簡単に使っちゃいけないの。あなたを助けてくれた人は、あなたに何かをしてくれた人は決してあなたのことをあなた『なんか』と思っていないのだから。そう言ってあげたいのだけれど、これは彼女が自分で気づいた方がいいのかもしれない。クリスが必死で伝えている最中かもしれないしね。彼は決して器用なわけじゃないけれど、誠実な人だから。花子には彼のような人が必要かもしれない。
 だから、私は二人を少しだけ手伝って去ろう。

「花子、クリスの手術はもう少しで終わるわ。もう2、3時間すればじきに喋れるって先生が仰ってた。私はもうすぐ帰るから、花子は彼についてあげて」
「……分かりました」
「本当、クリスの生命力は甘く見れないわね……」

 撃たれそうになった花子を庇って弾丸を数発体に受けながらも、きっちりと撃った相手を殴り飛ばしてから倒れるところが彼らしいというか……。

「いろいろ話してあげて」
「は、はい」
「それから、なるべくごめんなさいじゃなくてありがとうって言った方がクリスは喜ぶわよ。じゃあ、ね」
 
 あとは花子次第。


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