Chris | ナノ




「クリスさん…」

後ろから花子の声がするので振り返る。花子の姿を見て思わず目を丸くしてしまった。
目の前の彼女は俗に言うメイド服のスカートの丈が非常に短いものを着ていた。首にはレースのあしらわれたチョーカー、いつもは軽く束ねられている黒髪はシニヨンでまとめられている。

似合ってないわけじゃない、むしろ、とても可愛らしい。が、驚いて何も言えなくなる。周りに居た男共も同じらしい。

衣装クジでえらいことになったんだろうな、と思いながら何か上手いコメントを探していると、花子は俯いてしまった。スカートの裾を握る手が震えていて、かなり恥ずかしいんだろう。

「すみません、こんな格好…」
「いいんじゃないか。可愛いと俺は思う。」
「…クリスさんは優しいですね。」

少しだけ彼女の表情が緩んだ。と、後ろから花子に迫る影。

「ヘイ花子ちゃん!写真一緒に撮ろうぜ!」
「る、ルイスさん…」
「可愛いぜ最高だよお嬢さん!すぐ着替えてくるからちょっと待っててくれよ。」

ルイスは衣装クジでレオンとともに「マフィア」を引いた。取り残された花子はポカンとしていた。
「あまりアイツを相手にするなよ花子。」
「は、はい…あ、レオンさんかっこいいですね!」
「そうか?ありがとう。」

レオンが苦笑しながら更衣室から出てきて花子の肩を叩く。レオンはもうすでにマフィア風の姿だ。

「それにしても可愛いな花子。よく似合ってるよ。」
「え、あ、ありがとうございます。」
「俺の専属のメイドに」
「おい何言ってる。」

とんでもないことを言い出したレオンを睨む。すると奴は心底面白そうに笑って冗談だと呟く。ストレートを繰り出すか否か迷っているとメイド姿の花子が「そう言えば、」と言ったので彼女の話を聞くことに集中する。

「クリスさんの衣装はどうなったんですか?わたし楽しみです。」
「あ、ああ…俺のは…」

正直今まで参加してきた中では一番マシな衣装ではないかと思う。去年はよく分からない服を着たレオンとウォーリアと呼ばれる衣装を纏った俺が駆け回るというとんてもない絵柄だった。
だが、今年は違う。ゼブラだ、その名の通りシマウマ柄の衣装で、なかなか気に入っている。動きやすいし、吸水性もなかなかある。

「今から着替えてくる。」
「あ、はい!いってらっしゃい!」

更衣室に入るとルイスが鼻歌を歌いながら肩ほどまであるウェーブしている髪を纏めていた。

「お、クリス!」
「お前はいつでも楽しそうだな、ルイス。」
「当たり前だよ。花子ちゃんと写真撮るんだぜ?」
「あんまり花子をからかうなよ。」

分かってるって!と言いながらイキイキと出て行った彼は、マフィアの衣装がよく似合っていた。
さて、俺も着替えるか。シマウマ柄のズボンを履いて、後はインナーを着て上にジャケットを羽織るだけだ。そう思ってTシャツを脱ぐ、と。

「きゃあああ!?」

外から花子の悲鳴が聞こえてきて、反射的に外に飛び出す。

「花子、どうした!?」

見ればルイスがジルに鋭い蹴りを入れられているところだった。どうやら花子に何かしたらしい。あれほど言ったのに。まあ、花子に何事もなかったならよかった。

「お騒がせしてすみませ…」

俺の方を見てフリーズする花子。ふと自分の格好を見返すと自分が上半身裸であることに気が付いた。その瞬間にジルの上段蹴りがヒットして更衣室に押し込められた。違う、違うんだ…!



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