Chris | ナノ




空になった皿を下げに来たウェイターが、食後のコーヒーはどうかと聞いてきたので頼んでおく。本日三杯目だ。

運ばれてきたそれを飲み干して、席を立とうとするとウェスカーが呟くように「これからもあの子を頼む」と言った。彼の目は普段より弱々しく見えた。
まあ頷けばいつも通り、何を考えているか分からない鋭い目に戻ったけれど。…やはり、恐ろしいな。



ホテルから出ると1人の少女がこちら、正しくはウェスカーに向かって歩いてきた。よく見ると花子で、俺に気付くとぺこりと頭を下げた。手を軽く上げて返す。

「ダディ、迎えに来たよ。もうすぐエクセラが車をこっちに回してくるから。」
「ああ分かった。ありがとう。」

初めて見るフランクに喋る花子がやけに新鮮でボーっとしているとクリスさん?と呼ばれた。

「こんばんは、クリスさん。」
「ああ、こんばんは。」
「今日は、色々とありがとうございました。いつもたくさん迷惑をかけてしまってごめんなさい。」
「構わないさ。体の調子はどうだ?」

だるさが抜けましたと彼女は笑った。やっぱり可愛らしい、なんて思ってから慌てて打ち消す。十代の子相手に俺はいったい何を。
豪華な料理に体が驚いたのだろうか、胸がきゅうと締め付けられるような感覚に陥った。

「ああ、エクセラが来たな。」
「ああ、じゃあまた明日。御馳走様でした。」
「気にするな。」

くるりと背中を向けてウェスカーは車に乗り込む。花子も彼の背中を追おうとして、いったん俺の方を見た。

「どうした?」
「あ、その…お、おやすみなさい、クリスさん。」
「ああ、おやすみ。ゆっくり休めよ。」

お気をつけて、と頭を下げて今度こそ花子は車に乗り込んだ。ウェスカーと花子とエクセラが乗った車を見送ってから駐車場に向かった。

車に乗り込んでからエンジンをかける。ワインは頼まなかった、このあとにレポートが残っているからだ。


ふと、ミラーに映った鏡に写った自分の顔が笑っていることに気がついた。




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