Chris | ナノ




母親と話をしに行ったときも母親は二つ返事で彼女をウェスカーに渡したと言う。

「しばらく共に暮らしていく内になんとか花子は喋れるようになった。俺たちが喋っているのを聞いて、英語も話すようになった。」
「…」
「あの子が14歳の頃か、図書館から血相を変えて帰ってきた。何事かと思えば自分なりに4年前起こった事件の資料を集めて、母親がしていることを知ったらしい。」

花子の母親は研究のための資金を、ウイルスを開発してそれを『利用客』に売りさばくことによって作り出していたのだ。
父親に投与したものは新薬ではなく新しいウイルスだった。彼は実験台にされて亡くなってしまった。

花子は今でも母親を憎んでいるそうだ、それはそうだと思う。バイオテロを無くし、人を生物兵器へ変えてしまうウイルスを撲滅することがあの子の望みなのだとウェスカーは言った。

「強くなりたい、力がほしいと言うから、銃の使い方や体術を教え込んだら驚くほどの早さで上達した。この組織に入ることを望んだのも彼女の意思だ。」
「そう、だったのか。」

ここまで聞いて俺はようやく理解した。どうして花子があんなに、自分の体のことも考えられないくらい焦るように仕事をしていたのか。

「あの子は母親の真実を知ってから、笑わなくなった。元から感情が出にくい子だったが、以前はもっと笑っていたんだ。」
「…」
「だがどうしたことか、最近1ヶ月、少しずつ笑うようになった。…俺はお前と組ませたからだと思っている。」
「俺は何もしてないさ。」
俺は特に何もしてないはずだ。確かに以前より花子はよく笑うようになったが。それは慣れたからだと思っていた。

「そう言えば、今日花子が寝ぼけて俺に何か言ったんだが…」
「何と言っていた?」
「オトウサン、だったか?」

ウェスカーはグラスに入ったワインを飲み干してから、その言葉は日本語で父親という意味なのだと教えてくれた。
つまり、花子は俺のことを父親だと錯覚していたらしい。

「花子は具合の悪い姿をあまり他人に見せたがらないんだがな。一度風邪を引いたときに俺が様子を見に行ったら拒否された。」

お前は傍に居られたんだな…と彼は遠い目をした。今、初めて隊長の人間らしい一面を見た気がする。
意外と家族思いだったりするのだろうか。この鬼のような人でも。



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